「え、ちょっ…!」
くるりと背中を向けて、歩き出した加瀬くんに駆け寄る。
並んだ私を見て、そっと加瀬くんは目を細める。
ぎゅって締めつけた胸が痛かったけど、それよりも呼応するように赤く赤く火照る頬が恥ずかしかった。
「…加瀬くんは、電車?」
「うん、立原さんは?」
「…私も」
「そっか」
じゃあ、一緒だね、そう言って加瀬くんは楽しそうにけらけらと笑う。
学校から、駅までは徒歩で15分。
市街地を抜けて、外れにあるその駅に行く為の、あぜ道。
視界が大きく開けて、思わず目を伏せてしまうような大きな大きな夕陽。
水面がゆらゆらと揺れて、黄金色に光る。
「あー、明日って体育あるんだっけ?」
「あるよ」
「まじかぁ」
「体育嫌いなの?」
「んーん、好きだけど、でも、疲れるのはやだ」
とりとめのない、ありふれた会話。
だけど、私には、並んで伸びる影や、加瀬くんからそっと零れる言葉とか。
ほかの、なによりも大切で、特別。
触れる肩と指先
手を伸ばせば、その頬に指先が掠めるようなそんな距離。
