「立原!…さん」
入学式から、一ヶ月。
桜が散って、視界を淡く色づけた花の色は、眩しい緑色に変わった。
玄関で靴を履き替えていれば、かかる声。聞き慣れたその声音は、不思議と耳に残る。
「…だから。」
思い出したように付け足すくらいなら、べつに呼び捨てで構わないって、そう言ってるのに、加瀬、くんは頑なに『立原さん』って、私を呼ぶ。
『立原さん』
『加瀬くん』
気まぐれなこの掛け合いを、実は心地よく思っているだとか、そんなことは、きっと、ない、し。
暑そうな、額の汗が陽の光で白く映る。
肩越しに振り返って、加瀬くんを見て。
さらさらな黒髪が、淡く透きとおって、寝起きの猫みたいに、ふわりと笑う瞳がきらりと光る、その景色は。
(…夏色)
夏色、ステンドグラス。