――父が亡くなってから、専業主婦だった母は生活を守るために働きはじめた。


近くのお弁当屋さんで朝から晩まで仕事をし、帰ってきてから掃除、洗濯、炊事などの家事をする。


母は一度だって弱音を吐かなかった。


『花凛のこと頼むってお父さんに頼まれたから。ちゃんと約束守らないと、天国にいるお父さんに怒られちゃうわ』


母はいつだってそう言って明るく笑った。


あたしが知る限り、母が泣いたのは父のお葬式の日だけだった。


それからは、父の死の悲しみを振りはらうように働き続けた。


けれど、無理をしていたのを知っている。


だから、あたしは母にもたくさんの嘘をついた。


今だってそうだ。


『高校の友達、みんなパンとか学食で食べてるからお弁当作らないでいいよ』


心ではお弁当を作ってもらいたいと思っていても、母の負担を増やしたくないからと嘘をついている。