『借金は、…3000万だ』








リビングで煙草を吹かせながら
父が低い声で呟いた。



その言葉に顔を俯かせた母の
表情が酷く青ざめていたのをよく覚えている。





3000万。



当時、10にも満たない年齢だった私には全く実感の湧かなかった数字。






『……離婚、しましょう。』






母は、声を詰まらせながら言った。





『俺がどうなってもいいのかっ?』




母の言葉に父は勢い良く立ち上がり、煙草をくしゃりと灰皿に消すと握った拳をわなわなと震わせ頬も額も赤く染めて怒鳴り散らした。





『子供が居るのよっ!?』


『分かったよ!
じゃあ子供を連れて出て行けっ!
俺は死んでやるからなっ』


『っ……』






母は瞳に涙を沢山溜めて
父を一瞬睨むと私の名を呼び手を引いて勢い良く玄関を出た。








いつも暖かい母の手が
その時は氷の様に冷たかった。