「別に、猪瀬のこと、そんなこと思ってないってば!
私ね、自分でも予想外に嬉しく思えたのっ。猪瀬が私のことをそんな風に言ってくれたのが、すごく嬉しくて。
だから、それからずっと気になってて……気になってて……
気づいたら、完全に好きになってた」
「……湯川……」
俺……こんな時、どんな顔をすればいいんだろ。
めちゃくちゃ恥ずかしいとの、
めちゃくちゃ気持ちがくすぐったいのとが入り交じってる……。
もしかしたら今……すげー変な顔してるかもしれない。
湯川も、その時から俺のことを気にしててくれてたなんて……。
そんなら、もっと早く気づければ良かった。
「本当は、話しかけたかったんだ。その時も、学校でも。
でも、勝手に聞いちゃったりした手前、なかなか出来なくて。
それでもやっぱり……猪瀬に近づきたくて。だから、思いきってモデルをお願いしたの。
そしたら……こんな嬉しい展開になって、私……私ぃっ……うぅーー……」
「っ、ちょっ……湯川!?」
うわ、泣いちゃったぞ!
えーと……あ、あった。
「湯川。これ、使えよ」
俺は、ブレザーのポケットから黒のハンカチを取り出し、湯川に差し出した。
「あ……ありがとおー……」
と、湯川は俺からハンカチを受け取ると――
ズビーッ! と容赦なく、鼻をかんだ。
「あ」
それを、止める隙もなかった。
「……あーっ! やだぁ私ったら! つい……ごめん、猪瀬」
湯川は恥ずかしそうに、そのままハンカチを顔に埋めた。
「……ぷはっ! あははっ! たくっ。しょうがないな」
「……洗って……返す?」
「もういいよ。やるよ」
すると湯川も、ぷはっと吹き出し、俺と一緒に笑いだした。
あーあ。
俺……これからもこうして、湯川に流され続けて、
ガラにもないことしていくんだろうなぁ。
でも……全然嫌じゃない。
むしろ、今までよりもすごく幸せに感じる。
それもこれも、この天真爛漫な彼女のおかげだな。
……あ、ショコラのおかげでもあるのか。
じゃあどっちも……ずっと大事にしていかないとなー。
俺は、楽しそうに笑う湯川を、いつまでも見つめていた。
―終わりー


