湯川に見入ってると……
あ。湯川が顔をあげた。
と、思ったら――あれ? キョロキョロしてる。
もしかして、みんな面被ってるし同じ格好だから、俺を見失ってる?
……お、こっち見た。顔が『いたっ!』て言ってる。垂れの名前でわかったんだな。
ぷはっ、ウケる。遠くにいても、湯川の感情がわかりやすいし。
更に湯川は、俺が見てるのに気づいたのか、小さく手を振ってきた。
え……マジかよ。
振り返すのに照れが生じた俺は、手を軽くあげるだけにした。
それでも湯川は、ぱぁっと笑顔を見せた。
っ……………………マジかよ。
そんなに嬉しそうな笑顔、反則だろ。
周りは相変わらず、竹刀の打つ音と、当てた箇所を叫ぶ声がうるさく飛び交いまくっているのに、
自分の心臓の音が、一番うるさく聴こえてくる。


