――湯川がスケッチに来るようなってから、今日で五日目。
剣道場で俺達一年生は、それぞれ先輩達と二人一組になって練習を行っていた。
「めーーーーんっ!!」
俺は、先輩の面にめがけて竹刀をバシーン! と打ち込んだ。
「猪瀬ー。お前、最近調子いいなー」
先輩が褒めながら、俺の腕をぽんっと叩いた。
「はい、先輩のおかげです。ありがとうございます」
「はぁ? 違うだろう。最近よく来る、あの彼女のおかげだろ?」
と、先輩がアゴで差した先には、道場の隅で横座りしてスケッチをする湯川の姿が。ちょうどスケッチブックに目を向けているところだ。
「ちっ、違いますって。湯川は彼女じゃありませんしっ」
「どうだかねぇ」
「後輩をからかわないで下さいよー」
「ははっ! 悪い。お前に女っ気があるなんて珍しいから、つい」
顔の熱が上がり、面の中の温度まで上がった気がした。
この会話が湯川に届かなくて良かった。
それにしても、絵を描いてる時の湯川……普段とはまた違う。
スケッチブックと向き合う顔が、真剣そのもの。面白半分で絵を描いてるようには見えなかった。
本当に絵を描くのが好きなんだなー。


