狼の子(仮)



入学式となると新しい仲間やこれからの学園生活に心を踊らせる者も多いが、学園長や同窓会長の話、その他様々なお偉いさん方の話がつきもの。そのことに面倒だと感じる者がほとんどだろう。



それは狼羽があとをつける彼、オサキこと狐蛟(こみずち)も例外ではない。

学校も入学式も初めてな狼羽と違って、狐蛟はこの学園に中等部から通っている。ここの学園長や同窓会長らの話がどれだけ長いのか、うんざりするほどわかっているのだ。





しかし、狐蛟の面倒ごとはこれだけに留まらない。狐蛟自身、多少なりとも予測はできていたし、覚悟もしていたのだが、入学式前に最初の面倒ごとに捕まってしまった。


「く、九尾(くお)くんっ…お、おはよう!」





新しい仲間と活きたって祭りのような賑やかさの中に、ただ一つだけ、緊張したように強張った少女の声が響いた。


その声を合図としたかのように「え、嘘!九尾くん!?」「九尾くんが来たの!?」とさらに騒がしく少女たちの期待に満ちた声が湧き上がる。