あ、あ、あ愛してる

不安で暗く沈み、押し潰されそうだった気持ちが晴れていく。

課題曲「大切なもの」と自由曲「ROSE」を歌い終え、涙が溢れた。

――安心して、本番はもっと上手く弾く。ぶっつけ本番、得意だから

和音くんは画用紙に書いたメモを向け、優しく微笑み何事もなかったように、電子ピアノを鞄に仕舞い立ち上がった。

湿ったセメントに、直に座っていた和音くんの制服のズボンは、見た目にはっきりわかるほど濡れている。

和音くんはそれを気にする様子すら見せない。

肩から電子ピアノを入れた鞄を抱え、両手を拳に握り肘を曲げ、胸の少し下で2回上下する。

「頑張って……の手話」

誰かが呟いた。

「Alice、ありがとう。ズボン濡れて――」

――ジャージに着替えるから大丈夫

和音くんは笑顔でメモを向け、時計をチラと見て時間を確認し、ロビーに入り姿が見えなくなった。