僕と愛子のお母さんは、食卓で愛子がお風呂から出るのを待っていた。もう夕ご飯の準備は終わったみたいで、美味しそうな品々が前に並べてある。
「愛子、遅いね~。」愛子のお母さんは言った。
僕は愛子のお母さんを見ていた。彼女は柔らかい目つきでお風呂場の方を見る。すごく優しくて、温かい雰囲気のあるお母さんだ。僕のお母さんとはまるで正反対だ。母親とは、本来こうあるべきなのだろう。
「・・・あの!」僕は意を決して言った。「愛子のお母さん_______」
「あらやだ、白斗くん、そんな堅苦しくなくていいよ。私の名前、菜実って言うの。菜実って呼んで。」彼女は柔らかく微笑んだ。
「じ、じゃあ・・・菜実さん。」
「何?」
「あの・・・聞きたいことがあるんですけど、」僕は唾を飲んだ。「俺、家族とあまりうまくいっていなくて、それで色々あって一人暮らしをしているんですけど・・・この前、たまたま母を見かけたんです。母はとても冷たい人で、俺のことなんかこれっぽっちも好きじゃなくて。そして、目が合ったんです。でも、母は見ぬふりをして、そのまま離れて行ったんです。そしたら、何故か涙が止まらなくて。俺はもう、母がああいう人間だって知っていたはずなのに・・・。」
菜実さんは僕を見た。
僕は聞いた。「・・・どういうことだと思います?俺、自分が全く理解できなくて・・・。」
しばらく沈黙が続いた。そしたら、菜実さんは口を開いた。
「白斗くんは、お母さんのことをどう思っているの?」
「俺?俺は・・・。」僕はお母さんのことをどう思っているのだろう。好きか、と言われてもすぐに答えは出せない気がする。でも、だからと言ってそれは嫌いとは違う。家出をした理由も、僕がいない方が僕も、家族も、会社も、傷つかなくていいと思ったからだ。僕は、両親によってひどく傷つけられた。だから、家を出たら少しでも楽になると思った。でも、それは違ったのかもしれない。
「・・・嫌い、ではないです。」
菜実さんは微笑んだ。「分かってるじゃん。私に聞く必要なんてないのよ。」彼女は付け足した。「ちなみに、これは私の意見だけど、心からお互いを憎む親子なんていないと思う。絶対いない。」彼女は力強く言った。
僕は、同じ母親の菜実さんなら、なにか分かるかもしれないと思って聞いた。彼女に聞いて正解だった。こんな、聞かれても困るような質問をする僕と真剣に向き合ってくれる菜実さんに、心から感謝した。
「・・・ありがとうございます。俺、菜実さんに相談して本当に良かったです。」

