そこにはいつも君がいた



僕たちは四時頃に学校を出た。

僕はパジャマを詰めた鞄を持って、愛子について行った。幸い、彼女は徒歩通学なので、行くための電車賃やらの心配は不要だった。


「分かってると思うけど、今日は土曜日だし、お母さん家にいるからね。」

完全に忘れていた。

「え!?どうしよう、なんか渡すお菓子とか持ってくれば良かったかな・・・」

「銭湯にも行けない人が何言ってんの。いいって、大丈夫だよ。」


こういう時ってちゃんと挨拶した方がいいのだろうか。いや、でも付き合っているわけじゃないし。でもただの友達でもないし。僕たちの場合、どうしたらいいんだろう。


頭を悩ませているうちに、気づいたら僕らは愛子の家の前に立っていた。静かな住宅街の中の一軒家で、何かと可愛らしい家だった。


インターホンの上に貼られた表札には、シンプルな字で『村上』と書いてあった。

「愛子の苗字って、『村上』なの?」僕は聞いた。

愛子は驚くように僕を見た。「あれ、言ってなかったっけ?」

「うん、まだ。」

「そうだよ。これはお父さんの苗字じゃなくて、お母さんのだけど。」

そういえば前に言っていたような気がする。お父さんはアメリカに行ってしまい、母子家庭だと。家が可愛らしい雰囲気なのは、住んでいる人が女性だけだからなのかもしれない。



愛子は玄関の扉を開け、「ただいまー。」と大きめな声で言った。家に入った途端、美味しそうな食べ物の匂いが僕を包んだ。

そしたら、奥から『おかえり』という言葉と一緒に三十代前半くらいの女性が出てきた。高校生の母親にしては若い。その人は、薄ピンクのエプロンをつけて、長い髪を一つ結びにして高く束ねていた。何となく目元の柔らかい感じが愛子に似ている。



灯りがついている家に帰って、『ただいま』の返事と共に夕飯の用意をしている温かいお母さんが出迎えてくれる。

仕事で時には何日も家に帰ってこない親とその人たちに学校の後は塾に直行するように言われていた弟は、僕が学校から帰って来ても家にいることは滅多になかった。いつも持たされていた鍵で自分から家に入り、温もりのない家の中の電気をつけていた僕からしては、愛子がとても羨ましく感じた。