彼は屋上のフェンスの前に座り込み、月を眺めてた。
本当にいた。一体、彼は何者なのだろうか。もしかして本当に、幽霊なのだろうか。
彼はドアが開く音に気づかなかった。私はゆっくりと開けたドアをまたゆっくりと閉め、彼の方向へと静かに向かった。
「白斗。」私は優しく言った。
彼は驚くように私の方へ振り返った。
「愛子・・・。」
彼の頬には、またも一本の涙の筋があった。月光に照らされた彼の涙と潤んだ瞳は、私が今まで人生で見てきた物の中で一番美しいと、その時素直に思った。
私は彼の側に座った。彼も、私から目を離して、私と一緒に月を眺めた。
今夜の月は、満月には少し届かないくらいの、欠けた月だった。

