屋上から教室へと走っていると、廊下で馴染みのある顔に出会した。
「お母さん?」
時刻的には仕事にいるはずのお母さんが、学校の廊下を歩いていた。
お母さんは、私に気付いた。「あ、愛子。」
「なんでお母さんがここにいるの?」
「あなた、授業さぼってるの?」
いきなりだったものだから、私はドキッとして、え?、と小声で言った。
お母さんはため息を吐いた。
「担任の先生に呼び出されたの。『御宅のお嬢さんは授業をさぼりすぎだ。』、って。」
私はバカだ。何度か有村先生に注意はされていたけど、親が呼び出されることぐらい予測するべきだった。
お母さんは続けた。「愛子、なんのために学校に行かせてると思ってるの。高校は義務教育じゃないのよ。本当は行かなくていい所を、わざわざお金を出して通わせてるんだから、真面目に受けてもらわないと困るの。」
怒り気味なのが充分伝わった。お母さんは落ち着かない様子だ。
その言葉に私は腹が立った。唯一私の心が安らぐ場所が白斗の隣だった。それが否定された気分だった。
「何も知らないのにそんなこと言わないでよ!」私の声は廊下中に響いた。通るすがりの生徒たちが私の方を見るが、それも御構い無しに、私はお母さんの横を押し通り、教室へと向かった。

