そこにはいつも君がいた



白斗は、家に帰ったときの話をしてくれた。



彼の家は、学校から歩いて二十分弱の場所にあるらしい。彼は、念のためフードを深くかぶってそこに向かった。

家に着いて、家を出たときに持ち出した鍵で彼は中に入った。インターホンを鳴らしても、どうせ誰もいないだろうから、誰も出てくれないだろうと彼は思った。

予想は命中し、家には誰もいなかった。

とりあえず、白斗は自分の部屋で誰かが帰ってくるのを待つ事にした。半年以上も使われていなかったはずの部屋は、不思議とホコリをかぶっていなかった。むしろ、家を出た時よりも綺麗になっていた気がしたらしい。

しばらくすると、玄関のドアが開き、そして閉まる音がした。彼は玄関に行ってみると、そこには彼の弟の青太くんがいた。学校の後の塾帰りで、いつも帰りは遅いという。

まだ小学生の青太くんは決して表情豊かではなく、口数も少ない、冷静な子だ。


「一言で言うと、俺の正反対かな。」白斗はそう笑って言った。


だから、半年以上も行方不明だった兄を見ても、彼は表情一つ変えず、ただ『あ、兄さん。』、とだけ言った。

青太くんによると、お父さんは出張中で、帰るのは二日後の朝になり、お母さんは仕事でおそらく帰るのは真夜中になるという。しかも、白斗のお母さんは翌日の土曜日にも会社に行かなければいけないらしい。


「すごい忙しいね、白斗のお父さんとお母さん。」と、私は言った。

「いつもそんな感じだよ。」


結局、その日は寝る時間まで青太くんと遊んで、きっちり十時半に二人とも寝たという。


翌朝、食卓に行くと白斗のお母さんが朝食を食べていた。彼女は、昨夜青太くんから白斗が帰っているという連絡があったらしく、白斗の顔を見ても驚かなかった。

白斗のお母さんは割と冷たい人みたいだ。久しぶりに白斗を見て、第一声が『なに、そのみっともない髪。切りなさい。』だったと言う。

彼女は朝食を食べたらすぐに家を出てしまい、話は何もできなかった。仕方なく、帰ってくるまで白斗は家で暇をつぶした。


「不思議だよね。十五年以上も住んでた家なのに、半年行かないうちに、全部が見慣れないものに感じるんだもん。」白斗は言った。


午後に帰ってきたお母さんに、白斗は全て話した。家を出た理由、どういう生活を送ってたか、バイトの後にお母さんを見たこと、そして帰ってきた理由。


「待って、お母さんに会ったの?」

「あ、うん。ちょうど夏休みが終わる頃かな。」

そういえば、二学期が始まるときに、白斗の様子がおかしかったのを覚えている。おそらく、その時だろう。


白斗は家を出れば、彼を邪魔者として見ていた両親も楽になり、彼自身も傷つくことが無くなると考えた。しかし、一人での生活を送って、家族がいないことの心細さを感じた。私の母に会った時は、特にそれを痛感したらしい。そして、彼は自分の親が嫌いでないことに気づいた。それまで、会社のことばかりを考えていた両親を憎んでいたが、それはただ、幼い心の寂しさの仮面だった。彼は、家を出て、やっとそのことに気づいた。

静かにそれを聞いていたお母さんは、表情を変えずに言った。『確かに、私とお父さんは、あなたには会社を継ぐ必要はないと思っている。だけど、この家族であなたが必要ないとは、誰も言ってない。』、と。

彼女の話を聞くと、明るい性格の白斗には、自分の好きなことをして欲しいと昔から願っていたらしい。だから、白斗が家を出たことに気づいても、あえて白斗を探さなかった。彼がしたいことを見つけたなら、それを追って欲しいと思っていたと言う。白斗を街中で見た時も、もし彼が見つけてほしくないと願っているのならば、と思って見なかったふりをしたらしい。

さらに、これは後に知ったことだが、時々来る家のお手伝いさんに、彼女は白斗がいつでも帰ってこれるよう、彼の部屋を念入りに掃除するように言っていたらしい。

お母さんの話を初めて耳にした白斗は、全て理解していると勘違いして、親が思ってること、願っていたことを何一つ分かっていなかったことに気づいた。

さらに彼は、あることにも気づいた。無意識に彼があんなに気楽に外で買い物をしたり、バイトがいつもサービス業だったりするのは、心の底では、親に自分を見つけてほしいと密かに願っていたからだ。だから、お母さんに見つかっても無視されたことが、彼にとってはかなりのショックだったのだ。


翌朝に帰ってきたお父さんにも同じことを説明して、迷惑をかけたことを謝ったら、一発、拳で殴られて、許してくれたと言う。