結局エンジンも掛からず逃げられなかった緋居は、デッキの淵にフックの付いたロープを投げて繋げた状態で牽引されて接岸した。


「証拠写真も撮りました。もう逃げられませんよ」


デジタルカメラだったけれど、最近は高性能だ。望遠でしっかり写っている。


松嶋の腕の良さも窺えた。
何がなんでも自分の手で、悪事を暴きたかったのだろう。


「…あんたら、何者なんだよ…」


舌打ちする緋居。
後ろ手に、タオルで縛られる。


「しがない花屋ですよ」


にっこりと微笑む真言さん。


「しがない花屋が、クルーザーなんか持ってないだろ、普通。運転もめちゃ上手かったし」


ふん、とふて腐れる。
その顎をしゃくり挙げる壬言。
舌打ちすると、


「今度あいつにちょっかい出したら、俺が許さねえからな」


低い声で脅した。


「…ああ、榮喜か。わかってるよ。俺の敗けだ」


言う間に、パトカーと救急車のサイレンが聞こえ、水嶌が到着して連行された。