「お疲れのご様子ですね、家事は主婦には重労働ですものね」
家政婦に任せっきりで家事などしていないだろうことは百も承知だ。
手などきれいなものだ。切り傷ひとつ、あか切れひとつしたことはないだろう。
ネイルの施された苦労を知らない手をしている。
「もちろんよ!!本当に疲れるわ、毎日毎日」
「子育ても一区切りついて、ご褒美のお時間ということですね??」
「そうね…」
滑らかに解す手に、うっとりしている様子だ。
「ところで奥さまは、運命というものを信じますか??」
耳元で囁く。
「僕との出会いも、運命ですよ」
「…嬉しいことを…」
「因果応報、という言葉も、ご存知ですか??」
「……何が言いたいの…??」
「他人様を見下したり、その場の気分で好意を無駄にするのは勿体ない。奥さまの培ってこられた、努力と価値が下がってしまいます」
手を止めることなく解しながら、耳元で囁き続ける。
ある意味、暗示のようだ。
「悪いこと、非礼な振る舞いをすれば、我が身に返る。ということ。慈悲の心、感謝の心を常にお忘れにならないことです。ましてや正義の官僚の奥方」

