「…綺麗に、なりましたね…」


「た、たまたまよ。仕事で、ね。普段はジーンズにTシャツよ」


「仕事って??」


危うく言いそうになった。業務内容は口止めされてるんだ。


「えっと、花屋。ほら、お花の納品に」


「その格好で??」


「あと、その、知り合いのパーティーがあったから」


しどろもどろだ。
苦しい。


「真来さん、結婚は??彼氏さんとかいるんでしょう??」


ふと、壬言さんの顔が浮かんだ。
いやでも、壬言さんには茉莉子さんみたいな綺麗な人がお似合いなんだよな。


キスされても平気そうだったし。


パートナーじゃないって、はっきり言われたし。こんな気持ちのまま、また毎日顔を合わせて仕事するのも嫌だな。


やっぱり辞めちゃおうかな、もう。
ほらやっぱり邪な気持ちで始めたらろくなことにならない。


危ない目にもわざわざ遭わなくて済むし。
何よりお店に、真言さんにも迷惑も掛けなくて済む。


「………いないよ」


項垂れて元気なく呟く。


「マジっすか!?じゃあ俺とかどうっすか!?」


テンションを上げて顔を半分振り向く。その顔が肩越しに近付いた。


はい!?


ふっ、と微かに煙草の匂いがした。
嫌ではなかった。むしろ懐かしい感じがした。