あしたのうた



そうだ、紬と話すきっかけとなったのもそれだった。俺と紬の名前と、二つの和歌。妹尾と村崎。『妹を』、と、『紫草』。


額田王と、大海人皇子は、俺たちに関わっているのか。否でも、そう言った記憶はまだない、────思い出していないだけかも、知れないが。だとしたらでも、紬の態度にもう少し出ている気がする。ということは、あくまでただの偶然に過ぎないのか。今までは名前に共通点はなかったということもある。


それに、このうたにどう兄貴が関わってくるというのか。妹を、は俺ではなくて兄貴だというのか。それだとまるで俺と紬が大海人皇子と額田王のような────


ちり、と何かが記憶を焼いた。


はあ、と溜め息を吐いて、座席にもたれかかる。考えすぎ、だろうか。分からないことが多すぎて、どうにも判断がつかない。


なんにせよ、明後日は紬に逢える。その時に聞けそうなら訊くのが一番手っ取り早い気がしてきた。


答えてくれるかは分からないが、約束、を忘れているわけでもないだろう。いつの時代でも交わしている、いつもの約束だ。勿論紬が話さない方がいいと判断するならその意思を尊重するが、だからといって抱え込むことを良しとしているわけではないのだから。


明後日に備えて、今日明日のうちにある程度テスト勉強を済ませておくか。明後日は手に着かないことも考慮しておいた方がいいかもしれない。


そんなことがないのが、一番いいのだが。


その時代で何が起こるかまでは流石に分からないから、せめて心の準備をしておこう。紬が来ないなんて選択肢は俺の中には存在していない。


紬はちゃんと来る。だから、連絡が取れなくてもこうして待っていられる。


そう考えると、約束ってすごい。紬が言い出したことだけれど、確かに約束というものは『あした』を確実なものにするための一つの手段になっているのかもしれない。


よく考えるものだな、と思いながら、テスト範囲を頭の中で思い出していく。数学はワークの提出があるはずだから、今から手を付けておいた方がよさそうだ。あとは生物もノートまとめがあったはずで、英語も何かあったような気がする。


やることは、決して少なくはない。寧ろ試験前も相まって恐らく多い方だ。


紬のことについてはひと段落ついたせいか、数日考えていたせいで寝不足になっていたせいか、急に眠気が襲ってきた。降りる駅まではあと四駅。微妙な時間だ、下手に寝ると寝過ごしてしまいかねない。


寝ないために何かをしていよう、とスマホを取り出した。ブルーライトは寝る前は見ない方が寝つきがよくなるという話を聞いたことがある。ということは、寝たくないときは弄っていればいいのではないかという至極単純な考えである。


と、誰かからメッセージが入っていることに気付いた。名前は、────噂をすれば、だろうか。村崎、紬。


内容は一言、『水曜日に、話せたら話すね』。


嗚呼ちゃんと約束は守ってくれるのか、と感じて、分かったと一言返した。