「……でーと?」

「平仮名発音だね、紬」

「渉は積極的ですね」

「紬と一緒に居られるのが嬉しいだけだよ」


そんなの私だって同じだ。きっと多分、渉が言わなかったら私が口にしていた。


来週話しようよ、と提案すると、来週のお楽しみだね、と同意の返事。ふふ、と笑って渉を見上げると頭を撫でられて、まるで歳下扱いだ。


過去、を考えれば、彼女が歳上だったり彼が歳上だったりばらばらなので、特に気にはしないけれど。どちらがどちらでも、一緒に居られればさして問題にはならない、取るに足らない話なのだから。


と。ぶーぶー、とスマホが振動を知らせて、意識が逸れた。渉が慌てているから、どうやら渉のスマホらしい。私はサイレントマナーにしてあるから音は鳴らない。緊急地震速報も切ってあると言ったら、天音に意味ないじゃんと言われたけれど。他の人が鳴らすから問題はないだろう。


「あー……紬、ごめん」

「ん?」

「兄貴が、駅にいるって。車で迎えに来たから、って」

「……お兄さん、そんな人だったっけ」

「彼女だって分かってたみたい……あの時は違ったけど。今日も遅くなるって言ってあったから……仕事早く終わって嬉々としてるんだろうなあ」


彼女、という単語にくすぐったい気持ちを抱えつつ、お疲れ様と苦笑い。私のところも同じような感じだから、特に気にしているわけでもなく、弟をしている渉を見られるのは少し楽しみな気もする。


「私、目ー腫れてるけど渉が泣かせたとか思われない?」

「あー……多分思われる、けど。多分大丈夫だから、気にしなくていいよ。寧ろごめんね……」

「そっちこそ気にしないで。というか、お兄さんなんの仕事してるの? 結構早いと思うんだけど、この時間って」

「高校の事務員。教員じゃなくてね」

「へえ、事務の人かあ。意外かも」

「教師してそう、て?」


頷くと、よく言われる、と渉が笑った。学校の、と言われたら誰だって教師だと思うだろう。


普段は電車通なのに今日に限って車なんだって。狙ったと思うんだよね。俺に好きな人とか初めてだから、兄貴もテンション上がってるのかもしれないけど。彼女が可哀想だからやめろって言っておけばよかったかな。俺、兄貴にこんなところがあるなんて思わなかった。


私に言っているのか、ただの独り言なのか、分からない言葉たち。けれどそれらが本気のものではなくて、あくまで私に対するポーズとしての、素直に嬉しいと言えない気持ちの裏返しだということは分かっている。


弟をしている渉はいつもと違って可愛くて、お兄さんのことが大好きなんだろうなと改めて実感した。私もお姉ちゃんのことは好きだから、きっとお姉ちゃんといるときの私も同じような感じなんだろうなあと想像して。