あしたのうた



「つーむーぎ」

「……なぁに」

「冷たい声出しても、怒ってないのわかってるよ」

「知ってる」


遊んでみたかっただけ、と。素直に落として、渉に顔を向けた。そっと伸ばされた渉の手が、私の瞼をそっと撫でる。熱いね、と零された感想にうんと頷くと、再びペットボトルを当てた。


「まだ熱孕んでる」

「結構泣いたから」

「知ってる」


同じように返してきた渉に笑う。そっと頭に乗った手を拒否することなく受け入れた。優しく何度か動かされる手が、何か言葉を探しているように感じられる。


どうしたんだろうか、思いつつも、言葉にはせずにその温もりを甘受して。好きだな、と素直にふと思う。


その存在も、温もりも、私に向けてくれる感情も、全部ぜんぶ。ずっとずっと、ずっと昔から変わらないものの一つだから。好き、というよりも、あるのが当たり前のようなもので、それに酷く安心する。


当たり前がないとは分かっていても。少しくらいは錯覚させてくれたって、たまには許されると思う。


「ねえ、紬」

「んー?」


見えない彼の手が、止まったことに気付く。何かを決めたのか、一体何を決めたのだろうと思いながら、頭に載ったままの手からもたらされる温かさを感じる。九月の冷たい風で冷やされる身体には、そのほんのりとした温かさが酷くありがたい。


目を細めると、渉がどうしたの、と問いかけてくる。あったかい、と一言返すと、嗚呼と納得したような声が返ってくる。もう片方の手が頬に触れて、温かさにすり寄るとふふ、と小さな笑い声がした。


「猫みたい」

「……初めて言われた」

「そうかな。俺結構、紬のことは猫っぽい感じすると思ってたけど」

「……私、そんなに、気紛れっぽい?」


そんなつもりはなかったけれど、そうなんだろうか。少しペットボトルを持ち上げて、上目遣いに渉と目を合わせる。冷やしてなよ、と言われて大人しく元に戻した。視界から渉がいなくなる。


「なんていうかな、許した人にはとことん甘えるところ、かな」

「……渉だから、だよ」

「嬉しいよ、紬」


さらっと言った渉に、きっと私の頬は染まっていることだろう。また落とされた笑い声に反論したくなるが、出来ない。こういうところで素直な言葉を吐く渉が嬉しくて、けれどかなり恥ずかしさもある。


「ねえ」