ぞんざいな返答を投げて、口の中で言葉を繰り返す。運命共同体。間違いでは、ない。これが運命だと考えたことはなかったけれど、そうか、運命共同体、か。
「なんか紬、嬉しそうだね?」
「……気のせいじゃない?」
「気のせいじゃないってー! よかったね、運命共同体と出逢えて」
「……うん」
「紬がこういうところで素直なのって珍しいね」
「うるさい」
密やかに、隣で渉が笑う。それを咎めるようにそっと視線を送ると、ごめんと目線で謝られた。
「いいねえ紬、好い人、見つかって」
「……羨ましいでしょう?」
「うわ否定しないんだ。ふうん……妹尾くん、紬のことよろしくね」
「……それは、勿論」
「……ねえ、付き合ってるの?」
違います、と二人揃って否定するととても不思議そうな顔をされた。正直気持ちは分からなくもないが、付き合っているわけではない。正確に言うなら、付き合っていた、というべきか。
そこまで話すつもりは毛頭ないので、それ以上は口を挟まなかったけれど。
「何かお邪魔っぽいし、私帰るね。お二人さんも気を付けて、紬はちゃんと目ー冷やすんだよ」
じゃあねーとあっさり帰って行った天音を見送って、渉と二人、顔を見合わせた。ねえ、と声をかけるとなあにと言いつつ渉が私のおでこに自分のおでこをこつんと合わせてくる。
真顔だったのに、至近距離の渉に思わず小さく吹き出した。そのままくつくつと笑っていると、嬉しそうだね、と天音と同じ言葉を投げられる。
「嬉しいよ」
「……俺には素直なんだ」
「だって、他の誰よりも、渉との時間が大切だから」
そして、いつなくなってしまうか分からない時間だから。
変な意地を張って話せなくなって悲しい思いをするより、素直に認めて二人で笑っていた方が楽しいでしょう。
「……運命共同体」
「だって、そうでしょう?」
「……うん。そうだね。それは疑ってないよ」
「嬉しい?」
「当たり前じゃない」
運命共同体。私と彼の関係性。友達でもなく、彼氏と彼女よりも、夫婦よりももっと深い繋がりを示していそうな。
「ずっとずっと、ずっと昔から一緒だもの」
「かみさまの、お陰かな」
「そうかも」
かみさまの、せい。ではなくて、かみさまのお陰。
「渉、ありがとう」
運命共同体という、私たちの関係に対する名前。彼氏彼女より夫婦より、もっと的確に表している言葉。


