ずっと傍にいると、約束をしたから。
「渉。私のことを、信じていてくれますか」
「勿論」
約束、と。
囁かれた言葉に、泣きたくなってその胸に飛び込んだ。わっと、両手をついて私を受け止めてくれた渉が、困ったように笑い声を零したのが聞こえる。それから慣れたようにとん、とんと背中を叩いてくるから、我慢ができるわけでもなく。
「紬は泣き虫だね」
「わ、たるのせいだよぉ……」
くうっと締まる喉、なんとか絞り出した声を拾った渉がごめんごめんと軽く謝る。声を殺しつつぽろぽろと溢れる涙は渉のシャツに染み込んでいって、すん、と小さく鼻をすすった。
渉のせいだ。私がここまで泣くのは。渉と出会ってから泣いてばかりで、けれど渉と会えたからこそ、こうして温もりが近くにある中で泣いていられる。
家族でも、友達でもない。彼と彼女の関係はそんな簡単なものではなくて、それは私と渉にも言えるもので、恐らく言葉では表すことのできないような関係で。漸く逢えた、大切な存在がいてくれる、それだけで安心して、涙腺が緩んでしまう。
一度も泣かなかったわけではない。渉と出逢うまでの間。子供の頃は別として。その存在は憶えていたから、大切なひとがいないことが酷く寂しくて、何度か泣いたことはある。けれど傍に望んでいた温もりはなく、それが寂しさを強くすることに気付いて、いつの間にか彼を想って泣くことはなくなっていた。
きっと、その反動。今まで泣けなかった分を、清算している。
橋の上から、高校生のはしゃぐ声が聞こえた。対照的に、何も話さなくなった私たちの間には、私が堪えきれずに漏らした嗚咽だけが響く。暫く泣いていると、渉が控えめに声をかけてきて、ん、と涙声のまま反応するととんとん、と背中を叩かれた。
「紬、目、腫れちゃうよ」
「っ、いい、よもうぅ……」
「……帰り、また、ペットボトル買って帰ろうか」
「っん、」
残った涙を拭いながら、渉から離れた。案の定びしょ濡れのシャツに、ごめんと落とすと気にしなくていいよと頭を撫でられる。元はと言えば俺のせいだし、と続いた言葉に首を振った。
「それは違う、よ。渉のせいじゃない」
「紬のせいでもないからね」
「分かってる。いいんだよ、誰のせいだって誰のせいでもなくたって。……強いて言うなら、かみさまのせい、かな」
「……そうかもしれない」
行こうか、と差し出された手を握る。来る時は一人で降りた斜面を、今度は渡ると二人で登った。
薄暗くなってきた道路には、街灯がぽつりぽつりと点いている。空はうっすらと雲がかかっているらしく、そのせいなのか時間のせいなのか、月や星は見当たらない。


