あしたのうた



本当は、言わなくて済めばよかった。私だけで対処すれば、渉に不信感を抱かせることなんてないのに。渉と出逢ってから、私はきっと弱くなっている。


寄りかかることのできる存在を見つけてしまったから。それまで一人で頑張ってきたところに、頼れる存在ができたから。その存在を頼ってしまうのは、仕方のないことだ。


だから、ごめんね、渉。先に謝るよ。けれどだからと言って、未来を嫌いにはならないでほしい。


「もし私たちが結ばれる未来があったとしたら、私たちの記憶はもうそこで終わってしまうのかな」


ずっとずっと、ずっと昔から続いてきた、記憶。もし、私たちが結ばれる未来がきたら。彼女は、彼は、一体どうなってしまうのだろう。


私たちは、その先を、知らない。


結ばれたことなんてないから。ずっとずっと、ずっと昔から。私という彼と彼女は、別れしか繰り返してこなかったから。


だから。もし、私と彼が、紬と渉が、結ばれたら。私と渉が、それを望んでいたとしても。もし、結ばれたことがきっかけでこの先がなくなってしまうとしたら。


私は、その時どうするだろう。


この先の未来がないと知って、それでも尚結ばれるのか。それともこの先の未来がなくなってしまうことを恐れて、結ばれない選択肢を取るのか。


嗚呼、でも。結ばれないからと渉の手を取らなかったとしても、この時代で結論を諦めたところでずっと同じ状況が続く。この先も終わらぬ課題としてずっと付き纏ってくる。そして、この時代で結ばれずに終わったからといって、次の時代があるとも限らない。


それは、渉の言う『未来』を否定しているに異ならないのだが。それでも、考え始めてしまったからには止められるはずもなく。


「……わたる、っ」


沈黙する彼の腕を掴んで、小さく叫んだ。黙り込んだまま、渉は優しい顔で私の頭を撫でる。その、まるで全てを了解した様な顔に、私は傷ついて。掴んだ手から力を抜くと、その場にだらんと私の手が落ちた。


「ねえ、紬」


顔を、上げて。


柔らかく紡がれた言葉は拘束力を持たない。それでも、嗚呼渉を見なければ、そう思うのは彼が私の名前を呼んでくれるから。優しく、語りかけるように、そっと私の名を呼ぶから。


「紬」


もう一度、繰り返された自分の名前に、私は恐る恐る顔を上げた。


頭に置いてあった彼の手が、私の頬に移動する。私の前に回り込んで頬を両手で包み込んだ、彼の体温が温かい。ほっと、安心するその温かさに右手を重ねると、左はいいの、と彼が笑った。


「いい」