「でも、私は、あしたも未来も信じてる。だって、信じていないより信じてる方が、あしたも未来も寄ってくるような気がして。確かにいろんな経験も別れ方もしてきて、何回も来ない『明日』を、『未来』を経験してきたけれど、その『明日』を『未来』を確約はできなくても約束はできる、その約束が、いつ来るか分からない別れから『私』を守る一つの方法だった」
要は、自制。恐怖から逃れるための、ある種の祈り。
「約束をすれば、その約束まではきっと生きていられる。一番大切な約束は、また少し違うけれど。でも例えば今日の約束は、この日逢うまでは死ねない、約束を破るわけにはいかない、生きなきゃっていう、原動力になると思うんだ」
それに、生きていなければ、彼に会うことは叶わないから。
「だから、信じようよ、渉。簡単に信じられない気持ちも、信じたくない気持ちも、疑いたい気持ちも分かる。けど、ねえ、信じて」
私と一緒の未来を。きっと来るであろうあしたを。
「嘘なんかじゃないよ。全部、全部本当にあったことだよ。その記憶も、温もりも痛みも嘘なんかじゃない。誰かが作ったものだったとしても、私たちにとってはそれが『本当』なんだから。記憶なんて過去なんて曖昧でどうしようもないかもしれないけど、それを信じるも信じないも私たち自身だよ」
信じなかったら、そこで全て終わりになってしまう。それなら私は、信じないより信じてその記憶を過去を大切にしたいと、そう思う。
「信じたらそれは本当になるんだと、私は思ってる。信じなかったら嘘のままで、そんなのは哀しいでしょう? だったら私は信じるよ。過去も記憶も、そしてこの先過去になるはずの未来も、あしたも。過去がなかったら、今の私たちはいないんだから。そうでしょう?」
「……そうだね、うん、その通りだ」
それでもまだ、信じることはできないだろうか。
渉、と呼びかけると、なあに、と隣から声がする。どうして私という彼女と彼はずっとずっと、ずっと昔から繰り返してきたのか、その理由を考えてしまって、思いついてしまったから、唐突に怖くなって。
今までずっとわからなかった。かみさまのせいだとしたら、かみさまの悪戯だとしたら、かみさまの気持ちなんて分からなくていいと、ずっと思っていた。
けれど、思いついてしまったものを、消すことはできない。一度考えてしまったものを、そしてその内容は、とても自分ひとりで打ち消すことのできるものではなかった。
「渉」
ねえ、渉。
不安になって伸ばした手を、渉がしっかり握ってくれる。どうしたの、と優しく落とされる言葉に、涙が零れそうになった。
「どうして、私たちはいつもいつも結ばれなくて、その度にこうして出逢うんだろう? かみさまの悪戯? ねえ、だったらもし、私たちが結ばれる未来がこの先訪れたら、私たちはどうなるんだろう?」
ごめんね、渉。未来を折角信じようとしている渉に、こんな疑問を投げかけるなんて。


