あしたのうた



「渉」


思わず、口を挟んで渉の言葉を遮った。一拍置いて、ごめん、という呟きが渉の口から洩れる。


思い、出したのか。文と聡太郎の最期を。あの悲惨な、痛い程に鮮明な、過酷な、最期を。


「……信じられない、はず、なのに。あしただって、未来だって、ないんじゃないかと思うのに、だから約束なんて嫌いなはずなのに。だって守れなかったら嫌だから。守れなかったら、ただただ辛いだけだから」


それは、きっと、まだ思い出していない『記憶』の中にある出来事があるからだ。


守れなかった約束のせいで、私も、彼も、何度もなんども辛い経験をしてきた。その度に、また何度もなんども約束を交わし続けてきた。


この時代でも。同じ約束を、私は渉と、交わしている。


「だから、あしたなんて未来なんて約束なんて、嫌いだって、思ってたのに……俺は多分、信じたいんだと思う」


記憶も過去も未来も、全部。


「嘘だと、思えない。思いたくないんだ。彼女と過ごしたすべて。一緒に見た風景も香りも、感じた体温も、呼ばれた名前も、あの痛いくらいの記憶も。嘘だと思えない、嘘なんかじゃなかったって、本当にあったんだって、そうだとしたらあの時の約束は、何度も交わしたあの約束は今もまだ果たしている途中だから、」


泣きそうになってしまう。けれど、泣いてはいけない気がする。


泣いたら、渉はきっと言いたいことをすべて言えないまま私を慰めてくれるから。


死んだら、約束はそこで終わりだと思っていた、けれど。


「躍起になって、あしたを未来を約束を嫌っていた理由ってなんだろうって。あしたなんて信じられないからで、未来なんていつ来なくなるか分からないからで、だったら約束なんてしたって果たせないのがこわいからで。でも、俺は、俺たちは約束、一番大切な約束は破ってない。……そうでしょう、紬」


そうだね、そうだよ、渉。


こくり、と強く頷くと、視界の端の渉が微かに笑うのが見えた。


「ずっと一緒にいるよ。俺は紬の傍にいる」

「わ、たしも」

「俺きっと、臆病なんだ。だからあしたも未来も約束も嫌って、否嫌ったふりをして。けれど、何度別れても、約束は守れるんだね。ずっとずっと、ずっと一緒に。俺と紬────彼と彼女だから、果たせる約束」


他の人では、果たせない、約束。時代を超えてまで果たしていく、大切な約束。


「本当は、それすらもいつ破られるかもわからない。今はかみさまの悪戯か何かで、彼と彼女は一緒にいることができている。けれどその均衡がいつ破られるか。それが俺は怖い。あしたが、未来がなくなってしまうことが。……約束は果たしている最中でも、それがいつなくなってしまうかは分からない。いつ終わってしまうかは分からない。もしかしたら、あした、終わってしまうかもしれない」