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そして、翌週の水曜日。
「紬、一緒かーえろっ」
「今日は無理」
「いっそ清々しいね! って紬!?」
天音に捕まりそうになったのを軽くいなして、席からするっと抜け出した。掃除当番は幸いにしてない月である。すぐに渉が来ないことは分かっていて、それでも私は学校を飛び出した。
来てほしいようで、来てほしくなかった今日。この間別れてから一度も連絡はなかったから、話すことさえ久し振りに感じてしまう。
会いたいよ、渉。いくら大丈夫と言っても、やっぱり私は渉が心配だ。
渉も私を心配してくれているように。それは渉だけじゃなくて、私だって渉のことを心配している。
下校する生徒に紛れて駅に向かう途中、河原に寄るために道を外れて川へ出た。この間は二人で降りた河原を、今日は一人で慎重に下りる。
ここのところ天気が良く、今日も天気が穏やかだ。先週よりもまた少し涼しくなった風が橋の下を通り抜けて、目を細めると私は深呼吸するように深く息を吸った。
あの日、渉と別れてから今日までの数日間。改めて、私という彼女と彼の存在と、約束と、私と彼の関わり方について考え直してみた。
恐らく日常から、普通からは逸脱したイレギュラーな存在である私と彼。この時代では、紬と渉。
決して普通ではない。その、普通すら、私にはもうわからなくなってきている。昔から、ずっとずっと、ずっと昔から、私と彼は過去の記憶を持って、様々な時代を生きてきたのだから。
正直なところ、考え直したってなにも分からない。間違っていたとか間違っていないとか、そういう問題でもない。
そういう話ではないから。この問題は、否、問題と言っていいのかは分からないけれど。正しい答えも、間違った答えというものもないし、正しい言葉も間違った言葉もない。存在を考えたって仕方ないし、関わり方なんて、そんなのいつの間にか出来上がってくる。
ただ、約束、が。過去が、記憶が、未来が。
私にとって、彼にとって。どんな意味を持つのか、どんな存在なのか。
考えても、私は渉のすべてを知らない。当然、渉ではなかった彼の時の彼のことも、すべてを知っているわけではない。
だから、また、話をするしかなかった。今日渉の話をちゃんと聴いて、それで、どうしていけばいいのか、話をして。
私のしたいこと、渉のしたいこと、私のしてほしいこと、渉のしてほしいこと、私のしてほしくないこと、渉のしてほしくないこと。
それらをすり合わせて、全部が全部できるわけではなくても、ちゃんとお互いを理解できるように。


