あしたのうた



この際家族には怒られよう。心配は掛けるから、せめて連絡だけ入れて。そうと決めたら、一度改札から出て、また入場し直さなければいけない。


握ったタオルはそのまま、階段を降りて改札を通る。そのまま再入場しようとした私の視界に、人影が写り込んで。


見覚えのある人影は立ち止まった私に、紬、と声をかけてきた。


「……紬」

「わ、たる……? どうし、て」


今度のどうして、は、許される問いのはずだ。


「……歩きながら、話をしようか」


ぎゅっと、渉のタオルを握り締める。今度こそ間違えないと、心に誓って。私に向かって差し出されたその手を、そっと握った。


どっち、と訊かれて案内しながら話を切り出すタイミングを計る。そんな私に気付いたのか、渉がごめん、と先に口火を切った。


「駅着いて、送るって言ってたのに紬を置いていっちゃったこと、すぐに気付いて。兄貴が帰ってるっていうから兄貴に頼んで送ってもらったんだ。……もう、帰っちゃったかと思ってた」


私がホームで気持ちの整理をつけていたからこそ、会えたのか。待っていてくれたことが嬉しい気持ちと、さっさと帰って待ちぼうけさせずに済んだ安堵の気持ちに挟まれて、身動きが取れなくなる。


そっと頭に振ってきた温もりは、さっきまで私が求めていたものそのもので。


酷く安心した私が彼の名前を呼ぶと、なあに、と前を見たまま渉が応えてくれた。


「……渉、約束守ってくれて、ありがとう」


今日、送ってくれるという、約束。たったそれだけの、けれどそれだけと言ってしまうには私と渉にとってはとても重要な、約束。


今日の約束はもう無理だと、諦めていたから。ちゃんと約束を守ろうとしてくれたことが嬉しくて、破ることはなかった渉に安堵して。


彼は、どうしようもない事由以外のことでは、約束を破ることは絶対にしなかった。いくら約束が嫌いでも、約束を守らないというわけではないことは知っていた。寧ろ、約束を守れないことが嫌だから、約束したがらない彼を私はずっと見てきた。


そんな彼が、約束を破ってしまったら。そうしたら彼は、私が彼にしたことを自分自身で責めるように、私のせいだったとしても交わした約束を果たさなかった自分を、きっと責める。


だからね、渉。自分から、私が言い澱んだ言葉を掻っ攫って口にしてしまう渉が、どうしても心配だった。


「……私、渉に無理させてばかりだね」


ぽつりと落とすと、渉が違うよ、と即座に否定してくる。ううん、とその否定を否定で返して、私はごめんね、と渉を見上げた。


「甘え過ぎだね、私。渉のこと、苦しめるだけだった。約束なんて、渉は────」