半分以上溶けてしまったお茶は、渉のおごってくれたもので。飲もうとして、どうしても飲むことはできずに渉のタオルにペットボトルを包み直すと再び目に当てる。
このまま帰るなんて出来なかった。幸い、帰ると言っていた時間まではまだもう少し猶予がある。
迎えに来られても困るから、ぎりぎりまではこうして。気持ちの整理をつけて、それから帰ろう。
目敏いお姉ちゃんにバレないように。それは無理だったとしても、せめてどうにかこうにかごまかすことができるように。自分に何か理由をつけて、言い訳を考えておかないと。
……渉。
暗いホームには、私一人しかいない。明かりがあるとはいえ、地方の無人駅、利用者も少ない上に時間も遅い。人気がないのはいつものことだったし、普段は別段気にすることもなかった。
こうしてみると、酷く寂しいなあ、と。河原で連れ立って駅に向かう時よりも、風が冷たくなっていることに気付いた。
寒い。渉といるときは、ここまで寒いとは思わなかったのに。
どうするのが正解だったのだろう、と考える。漏らしてしまった言葉は取り消すことはできない。分かっていることで、だから言葉を撤回することも、ごまかすこともなく、正面から体当たりしていった。
その場はごまかして、また今度日付を改めた方が良かったのか。ごまかすと言っても、あそこでごまかしたとしたらやっぱりその後どうなったのかは分からない。
では、言葉自体をなかったことにしてしまえば。けれど言葉を取り消すことは不可能で。
分かっていたのに、迂闊にどうしてなんて言ってしまったから。それさえなければなんて、今更遅い後悔にしか過ぎないのだけれど。
私には、どうしようもない。どうすることも出来ないのかもしれない。
渉を苦しませるだけ苦しませて、私はひとり、勝手に幸せだと感じて。その合間合間に渉が苦しんでいるのではないかと考えても、何もせずに放置するしかできなくて、結局私は。
渉を追い詰めるしか、出来ないのかな。記憶のことでも、彼を焦らせることしかできず。
私と彼は、絶対に一緒になる。そう確信していた、だってずっとずっと、ずっと昔からそうだった。この時代でもそうだと、信じて疑わなかった。
まさか、違うのだろうか。もうこのまま一生会えずに、記憶という『過去』だけを残して、これで終わり。
そんなの、やっぱり嫌だ。
ペットボトルを外して、立ち上がる。バッグの中にペットボトルを押し込んで、渉の残して行ったタオルを握り締めた。
待っているなんて、私じゃない。渉の高校の文化祭、やっと逢えた渉に歩み寄ったのは、私の方からだ。だったら今回も、私から追いかけて、そうしたらまたゆっくり。
時間はもう遅い。今から追いかけたとしても、多分渉には追いつけない。私は渉の家を知っているわけでもないから、二つ前の駅まで戻ったとしてもそこまでしか行けない。
それでも、行くだけ行ってみたかった。


