今、そのことで気を取られている場合ではないけれど。
電車の車内アナウンスが、いつの間にか渉の降りる駅を伝えている。だが私を送る、と言った以上、本来降りるのはもう二つ先の駅のはずだ。
私がこうして追いつめていて、それでも渉は私を送ってくれるのだろうか。自分でもどうしてほしいのか分からないまま、伸ばした手は渉には届かなかった。
「わ、たる……?」
「ごめ、ん。ごめん紬俺、」
一歩身を引いて立ち上がった渉の手から、拾ったペットボトルがまた落ちた。大きな音に迷惑そうに乗客がこちらに視線を向ける。丁度良く停車した電車、開いたドアから飛び出した渉を追いかけることは、どうしてもできなかった。
渉につられて立ち上がった私は、その場にすとんと座り込んだ。滲んでくる涙と漏れそうになる嗚咽を噛み殺して、隣のいなくなった温もりを求める。
もしかしたら、と。もしかしたら、渉はちゃんと私を送ってくれるのではないかと。
そう期待していたのに。やっぱり、ダメだった。渉を追い詰めた私の行動は、間違えていたのだろうか。
我慢してほしくなかった、ただそれだけ。それだけ、なのだ。私だけではなくて、渉にも我慢してほしくなくて、だからわざと追いつめて、自覚させて、渉にも言葉にしてほしくて。
ねえ、渉。ごめんね、ごめんね渉。
本来だったら、踏み込むにはまだ早かったのかもしれない。否踏み込むべきではなかったのかもしれない。もっとゆっくり時間をかけて、だって紬と渉には沢山の未来が残されているはずだから。
ぱたりぱたりと、我慢しきれなくなった涙が溢れてくる。それでもこれ以上迷惑をかけることはできないと、嗚咽だけは抑え込んで。
「ご、め……っ」
他愛ない話を、沢山した。河原で、二人並んで。泣いて、笑って、約束を、して。
────約束。
渉は、約束を破らない。それを私は知っている、否。知っていた、になってしまうのかもしれない。
私のせいだ。私が変な事を言ったから、渉は。
来週の水曜日の約束も、どうなってしまうのだろう。もう渉に逢うことはできないのだろうか。今日で仲良くなれたと思っていたのは、錯覚だったのだろうか。それとも私が崩してしまったのだろうか。
もう、きっと私は、渉を。
「……渉」
もう会えないなんて、嫌だった。
ふらふらと、到着した自分の最寄り駅のホームに降り立つ。そこにあった椅子に腰を下ろして、拾っておいた自分のペットボトルと、……その傍に落ちていた、渉のタオルを見つめた。


