あしたのうた






昼間より幾分か涼しくなった風が頬を撫でて過ぎて行くから、私はふと我に返って時間を確認した。


「何時?」

「七時過ぎてる。気付かなかったけど、もう大分暗くなってたんだね」

「嗚呼……言われてみれば。俺も気付かなかった」


夕焼けを通り越して、辺りはもう既に夜の準備が始まっている。家族に帰りが遅くなることを伝えていなかったことに気付き、ごめんと渉に一言謝ってからスマホを取り出した。


案の定何通か入っている連絡に、もうそろそろ帰る、と一言返事をしてからスリープモードにする。隣の渉も同じように自身のスマホを取り出して何かを確認していた。女である私より時間に関しては緩いと思うが、昨今は何があるか分からないため心配もやはりされているのだろう。


渉には兄がいる、と言っていたし、仲もよさそうだ。家族仲もいいと言っていたし、大切にされているんだろうなあ、とは話していて感じる。


私も家族と仲のいい自覚はあるし、周りにもよく言われるから、それがどうこういうことはないが。昔、を考えると、仲が良いと言われて言えるというのは、存外珍しいことなのかもしれない。


「紬、送るよ。親御さん心配してるでしょう、お姉さんも」

「うーん……否定はできないかな。でも渉、私より駅手前でしょう? そこまででいいよ」

「否、ちゃんと送ってくよ。心配だし、……一緒にいるって、約束したから」


そう言われたら、断ることなんて出来ないに決まっている。


どちらからともなく手を繋いで、慎重に道路に上がる。部活帰りの生徒がちらほら見えるところに紛れ込めば、辺りが暗いのも手伝ってそれほど目立つわけでもない。


昼間はまだ夏かと思うくらいには暑いが夕方、しかももう日も落ちたと言ってもいい時間になれば涼しいを通り越して寒いとすら思えてくる。温もりを求めて少し離れていた距離を詰めれば、隣で小さく笑い声が落ちた。


「寒い?」

「……うん、ちょっと」


なんだかんだ秋だもんね、と言った彼に頷く。


出逢ってから約二ヶ月。渉が思い出せた記憶は、まだ一部。


ゆっくりでいいと決めたし、渉自身もそれで納得している。思い出せる時にしか思い出せない、それでも焦ってしまう気持ちは声に出して、と。


「連絡着いた?」

「着いたよ。素直に送ってもらいなさいって。お姉ちゃんが渉見たいって言ってたけど流石にやめてって言ってある」

「うーん、今会うのは気まずいかな……」


泣いたせいで目元はまだ熱を持っている。腫れているかどうかは分からないが、いつも通りというわけではないだろう。


暗いからわからないなどと油断をしていると姉は容赦なく見抜いてくるので、今日下手に会わせるのは危険だ。