気付いているんだね、その言葉の意味を、ちゃんと理解しているんだね、と。
約束が持つ、言葉の重さ。昔の、前世の記憶を持つからこそ分かる、その難しさ。
実際に、約束の前に何度もなんども破れてきた。だからこそ、今度はとまた約束を交わして、その度にかみさまに弄ばれるように破らされて、また約束をして、その繰り返し。
私も彼も傷ついて傷ついて傷ついてきているのに、この約束だけは、どうしてもやめられない。
何が起こるか、分からない未来だからこそ。二人一緒の未来を望むことの、何が悪いというのか。それを約束して、何か都合が悪いことでもあるというのか。
彼は違うのかもしれない。『あした』を信じていないから、この約束をすることで私は彼を追い詰めてしまっているのかもしれない。私が傷つく以上に、彼はもっともっと傷ついているのかもしれない、けれど。
ごめんね、と謝るのは心の中。彼が謝罪を望んでいるわけではないことは、ちゃんと分かっている。
ねえ、渉。
渉は、彼はいつも私に言う。言葉にしないと分からないよ、と。言っていいよ、と。言葉にしてよ、と。いとも容易く私の口から言葉を引きずり出して、丸ごと受け止めてしまう。
私はそれでいい。そうやって彼に何でも言って、受け止めてもらえて、約束も出来て、その約束が果たされるかは別の問題だけれど、とにかく受け入れてもらえるのだから。
でも、彼は。渉は、どうなってしまうのだろう。
「……ねえ渉」
「なあに、紬」
「渉も」
渉も、言葉にしてよ。
口をついて出た言葉に、渉が目を見張る。嗚呼、これを言ったのは初めてかもしれない、思うが撤回するつもりは毛頭ない。寧ろ、言ってしまった今からすればどうして今まで彼の言葉を聞いてこなかったのだろう、と。
ふ、と笑みを零した彼の手が、私の目元を拭った。気付いていなかったが、いつの間にか落ちていた雫を彼が拾う。
「そうだね」
優しい笑顔が目に入って、嗚呼これは言ってくれないやつだな、と否応なしに理解する。予想通りに、そのまま言葉を流した渉が、ぽんぽん、と私の頭を軽く撫でた。
「紬」
ねえ、渉。お願いだから、そんな顔してまで笑わないで。
そう言えたらどんなに楽だろう。今までもそうだった。ずっとずっと昔から、彼は、私にあまり弱味を見せない人だった。
分かっていた。だから、口にしてこなかったのかもしれない。
けれど私と彼の関係もずっと同じというわけではなくて、文と聡太郎だった時と晶子と清吾だった時の関係はまるっきり同じではない。同じところも多いけれど違うところもちゃんとあって、晶子と清吾だった時の方がお互いの事情に踏み込めていた、ような気がする。
だから、この時代で彼が弱音を吐くことができるようになるのなら。それは、願ったり叶ったりで。


