あしたのうた



その繰り返しだった。またそうなってしまうのだろうか。また、逃れようのない運命に巻き込まれていくのだろうか。だとしたら、もう彼と関わることをやめてしまえば。


「紬」

「……わた、る」


そんなこと、もう出逢ってしまった今はできるわけがない。


「紬、言葉にしてよ」


ねえ、と覗き込まれて、その視線から逃れることなんて出来なくて。視線を合わせたまま、だって、と戸惑いを口にすれば、半ば呆れたように渉が溜め息を零す。


その頬は、まだ涙の跡が残っていたけれど。切り替えて渉に戻ったのか、それとも元々こういう性格なのか。


聡太郎様も清吾さんも、なんだかんだ私の口から、言葉を吐き出させようとしてくれていた。言葉にしないと伝わらないよ、なんて言いながら。分かっていることの方が多いくせに、それでも分からないこともあるよと言って。


私はまだ、妹尾渉、を知らない。


この時代、ここに来て漸く『彼』を知りたいではなくて、『妹尾渉』を知りたいと思った。


「渉、私ね」


ぽつり、と零した言葉が渉の相槌に拾われる。なんて言おうか、言ってしまっていいのか、少しの逡巡。


紬、という呼びかけに背中を押されて、喉の奥で止まっていた言の葉たちが飛び出した。


「約束、してほしいの」

「約束?」


繰り返した渉に、そう、と肯定する。その内容を、何となくでも悟ったらしい渉が、表情を硬くした。


「どんな?」


嗚呼、やっぱり、渉は。そういうところは、変わっていないんだな、と。


信じていないくせに、私の数少ない約束はきちんと守ってくれていた。守ろうとしてくれていた。どうしても守れなくて果たせなかった約束は、私のせいでも彼のせいでもないものだ。


その約束を、懲りずにまた。だって渉が、彼が言葉にしてと言うから。


いつもこうして繰り返している気がする。同じやり取りを、同じ約束を。聡太郎だった頃の記憶は全て戻っていないようではあるが、清吾だった頃の記憶はあるわけで。このやり取りが初めてではないことくらい、彼も分かっている。


分かっているのに、毎回約束を聞いてくれて交わしてくれる彼は、いつだって私のことを考えてくれている。


では、私は。私は彼のことを、考えられているのだろうか。


「……ずっとずっと、一緒に、」

「いるよ。いる。紬の傍にいる」

「渉、」


先回りして落とされた言葉、名前を呼んで、何を言いたかったのか分からくなって唇の動きを止める。縋り付きたくなる気持ちを必死で抑えて、滲む視界を必死で堪えて。視線を外さず合わせたままの私に、彼も視線を返してくれる。