そこから導き出せる仮説には、今は目を瞑って。
「……晶子の方が、先だったんだね」
こくり、と頷くと、首元に感じた冷たい雫に、そうっと顔を上げて彼を見た。
ぱた、ぱたと零れ落ちるそれに、そっと自分の手を伸ばす。自分の顔も酷いことになっているのは分かっていたけれど、伸びていく手を止めることはできなかった。
「待っていたかった。ずっと待っている、つもりだった。だから、あのうたを、君待つと、って、伝えたかったのに」
空襲を受けて、私は呆気なく、その生涯を閉じた。
それはほんの一瞬の出来事。目の前に落ちてきた焼夷弾にたたらを踏んだ、ただそれだけで。
憶えているのは、その直前に叫ばれた、悲鳴のような私の名前だけ。痛いとか熱いとか、そう言ったことを感じる間もなく、私はそのまま。
「……俺も、」
君待つと、のうたを。
つ、と頬を伝う涙を人差し指で掬い上げる。分かったよ、と笑うと、彼は綺麗でそれでいて酷く哀しそうな笑みを作って。
「……清吾さんは、やっぱり、特攻?」
「うん。晶子は、空襲、か」
「……そう、だよ」
きっと、私の笑みも彼と変わらないのだろうな。思いながら零れていく涙を、私と同じように彼が掬ってくれる。
果たせなかった、約束。守ると決めていた、約束。
彼が『あした』を信じない理由が痛い程分かってしまう。何度もなんども裏切られた『あした』を、信じる意味なんてないと、そう言われたって仕方ないとさえ思う。
けれど、彼は私と『約束』をしてきてくれた。
ずっとずっと、ずっと昔から。小さいものから大きいものまで、滅多に約束をしない彼が、私にはきちんと約束をしてくれることに、私は気付いていた。
私が気付いていることに、彼もきっと気付いていた。私から交わすことの無い約束は彼のためのもののようであって、ある意味彼を追い詰めるものでもあったのかもしれないし、私だって『あした』がこわかったのかもしれないと思う。
約束が嫌いなことを知っていたから、私は私から彼に約束を言い出すことはほとんどなかった。そんな私を彼は知って、彼の方から約束を言い出してくれた。
だからこそ、約束は決して破らないと、心に決めていたのに。
世界はそれを許してはくれない。時勢は、戦況はそれを許してはくれない。
否、戦時に限らず、江戸時代に文と聡太郎だった頃も。
破らないよう破らないよう頑張る私を、そして彼を嘲笑うかの如くかみさまは。いつもいつも、容赦なく私と彼の約束を、そして人生を引き離していく。
そうして次の世で出逢って、記憶を取り戻して、二人一緒になって、またかみさまが。


