あしたのうた



ごめんなさい、ごめんなさい、清吾さん。


うたを疑うことは、私の中で彼を疑うことと同義だった。だからここまで自分を責めて、逢いたいのに逢いたくないと思っていた。


そんな自分が、また嫌いになりそうだと、その繰り返しで。


「信じられなくて、ごめんなさい……!」


何度もなんども送ってくれた和歌を、沢山のうたを、いまだに私は憶えている。


「晶子」


分かっているのか、優しく、壊れそうな私を包み込むような声音で呼んだ彼に、零していた言葉を止めて、ひゅっと息を吸い込む。けほ、と咳き込んだ私の背中を撫でながら、彼が私の耳元で小さな言葉を積み重ねていく。


「謝らないで、晶子。あれはもう、どうしようもなかったんだから。俺にも晶子にも、他の誰にも。だから、信じられないのも、仕方ないよ」


そう言いながら、その声に一抹の寂しさが込められているのに気付いて胸が張り裂けそうになる。そうして自分を責める私に、彼は諦めずに言葉をかけてくる。


私は悪くないとでもいうように。そんなことはない、そう思っても、そこまで重ねられるとどうしようもなかったという気持ちも大きくはなってくる。


完全に、思うことはないけれど。それを彼は、清吾さんは、分かった上で少しでも私の心を軽くしようとしてくれている。


「ねえ晶子」


最期に贈ったうたを、晶子は知っている?


そう問われて、いつ、と端的に問いで返した。四月末頃、と言われて、嗚呼、と記憶を探るまでもなく声を落とす。私、と言い澱んだその意味に気付いた清吾さんが、私をきつく抱き締めた。


「清吾さん」


私が最後に贈ったうたは、届きましたか。


訊かれる前に四月上旬と言い添えると、漏らされた溜め息と横に振られた首に、やっぱり、と思わざるをえなかった。


きっと、それどころではなかった。それまでとんとんと手紙をやり取りで来ていたことが奇跡とも言えた。けれどそうやってやり取りをしていられたから、届いていると信じて、だから約束を守れなくてごめんなさいと、そう、心の中で謝って。


「────君待つと、」


落とされたうたに、自分の綴ったうたを思い出して、溢れてきた涙は抑えることができない。


────君待つと 我が恋ひをれば 我が宿の 簾動かし 秋の風吹く


────貴方様を恋しく待っていますと、家の簾を動かして秋の風が吹いてきます


額田王が、天智天皇を想って詠った和歌、と言われている。どうしてかそれが違うと思ってしまう理由は、分からないが。


四月にやり取りするには季節外れのこのうたを選んだのは、私と彼にとって、額田王が身近に感じられていたからで。彼女の和歌の中でもこのうたを選んだのも、中大兄皇子の存在が身近だったから。