あしたのうた



それでも、そんな『あした』を私は信じている。例え今日の私とあしたの私が同じ人物だという証拠がなかったとしても、同じではなかったとしても。その記憶がある限り、私はそれでいいと、思っているのだから。


だから。信じた『あした』に裏切られた過去を思い出すことが、私はとても怖かった。


背中越しの体温が、いつかなくなることを私は知っている。それが明日かもしれないし一週間後かもしれないし一年後かもしれないしもっともっと先かもしれない。


それでもいつかはやってくる、別れ。


私と彼は、ずっとずっと、ずっと。幸せな別れというものを、体験したことがないから。


平和になった世界だとしても、もしかしたら今回も、と、どうしても考えてしまうのだ。


「……渉」


名前を、呼ぶ。何度でも、呼ぶ。


いつもいつも、私は彼の名前を呼んでいた。そうすることで、安心できたから。反応が返ってくることが、安心材料になっていたから、────だから。


名前を呼んでも返ってこなかった『前世』を、晶子と清吾を、思い出してしまう。


「渉……っ」

「どうしたの、紬」

「っ、わたる、」


くるり、と振り向いた渉に抱き締められる。狂ったように名前を呼び続ける私に、何度もなんども返事をしてくれる。


渉。ねえ、渉。


きっと『あした』を信じていない渉に、こんな約束を押し付けるなんて卑怯だと思うから言わないけれど。


出来ることなら、私は。貴方と、交わしてほしい約束があるのだと。


それができないから、こうして名前を呼ぶことくらいは許してほしい。


「……ねえ紬、話、しようか」


まだ、俺が清吾で、紬が晶子だった時の。


少しだけね、と耳元で落とされた言葉に、私はそっと、頷きで肯定を返した。


それは、ある意味私たちにとっては鬼門、とも言えるようなもので。それでも話をしよう、と提案してきた清吾さんは、きっともう全てを思い出した上で、その言葉を口にしている。


「晶子」


耳元で落とされた名前に、清吾さん、と違う名前を呼んだ。瞬間溢れ出してくる想いや記憶や体験に、一度その拘束を逃れて背中から抱き疲れていたのを前から抱きつき直す。


その温もりが離れていかないよう。その温もりを、決して手放さぬよう。捕まえて、捕まえられて、閉じ込めて、閉じ込められて。


「清吾さん、」