「渉、行こう?」
「……紬」
「大丈夫。分かるよ」
────わ、かる?
何が、と訊きたかったけれど紬は既に歩き出していた。
追いかけて、正直問い詰めたい。何を知っているのだと。夢のことといい、今と言い、紬は俺の何を知っているのだと。
けれど、それでは意味がない、ような気がした。問い詰めるのは簡単だ。俺は男で、紬は女で、手段を選ばなければ無理やり訊き出すことなんて簡単な気がする、それでも。
それをしたら、紬が離れて行ってしまうと思って。それをしても、紬は答えてくれないような気がして。
会うのこそ、まだ二回目だというのに。
最近の俺は、どこかおかしい。
「わーたる」
「……あ、ごめん」
「いいよ。何かあるんでしょう?」
「……うん」
名前を呼ばれて、漸くしっかり戻ってきた。謝ると、困ったような笑みを浮かべた紬が首を傾げて言葉を紡ぐ。それに素直に答えると、行こうか、と再度紬が言葉を投げた。
歩き出す紬に後ろから着いて歩きながら、初めて来るはずのその景色をきょろきょろと見回す。どこか見覚えのありそうなそれは、どこにでもありそうな夏祭りの風景だからだろうか。
綿あめにりんご飴、フライドポテト、お好み焼き、たこ焼き、きゅうりに棒のパイナップル、焼きそば、ジュース、かき氷、かたぬき、射的。
どこのお祭りにもありそうな出店たち。だが、それではない。見覚えがあるのはそういう出店ではなくて、そう────
「渉」
「────文」
「……え?」
ところどころ違う。変わっているところも多い。俺だって『あの時』みたいに着物を着ているわけではないけれど。
唐突に、思い出した。
きっかけさえあれば、あとはするする芋蔓式に思い出せる。
一緒にこの神社のお祭りに来た。あれは、もう何年前になるだろう。あの頃はまだ徳川が治めていた時代で、俺はどこかの大名に仕えていた武士で、文は俺の許嫁で。
あの頃も、和歌が好きだった。戯れに、真剣に、いつも文と和歌を交わしていた。
「聡太郎、様」
「ごめん、文。思い出せなくて、すまない」
「いえ。いいのです。こうして思い出してくれたのですから。……聡太郎様」
俺は、このお祭りに来たことがある。昔、ずっとずっと昔、まだ聡太郎だった頃に、文と二人、このお祭りに。
今でもやっていたのか。そして、文は、紬は全部、知っていた。知っていて、このお祭りに誘ってきた。
「聡太郎様。……今は、もう、文、ではありませんから」


