あしたのうた





***


お焚き上げも川や海に流すこともできないため、笹を可燃ごみとして出し、片付けも終わって無事終了となった文化祭。


暫く連絡のなかった紬から突然きた連絡は百人一首の大会の日程を知らせるものと、夏休み中二人で会えませんか、という誘いだった。


思いもよらないものだったが、すぐに行くと言ったのは和歌の話がしたいというのと、────紬に会ってから感じているわけのわからない感情に、答えが出るのではないかと思ったからだ。


あれからも、まだ、夢を見る。そしてその頻度が、段々増えてきている気がする。


夢の内容は覚えていないのに、その夢を見た、ということは分かるのだ。つくづく夢とは都合のいいものだと感じるが、少しくらい覚えててもいいのではないだろうかと思う。


声だって、覚えているのは文化祭で思い出したせいごさん、という呼びかけだけで。それ以降は何も思い出せないのだから、いっそもどかしくなってきてしまう。


せめて、声の相手だけでもわかればいいのに。


紬と会う約束をしていたその日、見た夢はいつもと同じものだった。


「渉」

「おはよ、紬」

「おはよう」


改札を出て待ち合わせ場所に行くと、既に紬は来ていた。神社の夏祭りだからか、浴衣を着て髪の毛は簪でまとめていた。


────ふみ、


脳裏を、何か記憶、のようなものが過ぎった。


ぱっと消えてしまったその記憶に、紬の前でその場に立ち尽くす。渉、と呼びかけられるが、どうしてか違うと、強くそう感じた。


渉ではない。渉ではなくて、俺は────おれ、は。


「渉!」

「……っあ、」

「渉、どうしたの? 大丈夫?」

「ごめん……平気。大丈夫」


今のは、一体何だったのだろう。自分の名前が渉ではないような、そして紬が紬ではないような。


そして、既視感。


まただ。紬といると、よく感じる。得体の知れない、否既視感に得体が知れる方がおかしいのかもしれないが、既視感と、感情と。


ふみ、と、そう聞こえた気がする。脳裏を過ぎる声。俺のもののようであって、俺のものじゃないような声。


正直、何度か考えたことがある。けれどそんなことはないと、有り得ないと、打ち消してきた考えがある。


紬。紬は、俺の、なに?