あしたのうた



「これ読む?」

「ありがとうございます読みたかったですー!」

「白石さん好きだもんね」

「はい! 双葉先輩の作品好きなので!」


後輩────白石さんに同輩の作品を受け渡して、再度時間の確認。案外時間は経っていたようで、紬と言っていた約束の二時半まで残り少し。


そろそろ行くか、と荷物を纏め始めると、気付いた紬が顔を上げた。


「時間?」

「うん、そろそろ。大丈夫?」

「分かった、連絡入れておく。……教室、どこ?」

「団体名は二年A組、教室自体は二年D組でやってる」

「了解」


行こうか、と立ち上がった紬が元の場所に展示作品を置く。行ってらっしゃい、と手を振ってきた部長に会釈を返して、文芸の教室を出た。


当然ながら廊下までは冷房は入っていないので、暑い。教室が涼しいを通り越して寒いと言えるレベルだったせいか、気温差で余計暑さを感じる。


「夏だねえ……」

「七月に入ってから急に暑くなったよね」

「うん。六月までは暑くてもあまり夏、って感じしなかったのになあ」


季節の代わり方、というのは凄いものだな、とつくづく感じる。月が代わるだけで人の感覚というものも変わってくるのだろう。


夏。七月は、旧暦では大体五月から六月あたり。


明日は七夕か、と今更ながらに考えた。今日が七月六日だというのは認識していたが、何故か明日が七夕だというのはあまり考えていなかった。


「お友達さんとは連絡ついた?」

「あ、ついた。D組で合流しようって話になってるから、短冊書いたらそのまま待ってる」

「ん、分かった。もしかしたら片付け始まってたりするかもしれないけど、机とか椅子はまだのはずだからいていいよ」

「ありがとう」


装飾係兼会場設営をやっているので、裏方の仕事は大体頭に入っている。というより、準備と片付けはワンセットみたいなところがあるから。


受付免除してもらった分、片付けは頑張らないとな、と思いながら、冷房をかけているために閉め切っていた教室のドアを開ける。先に紬を中に入れて、後から俺が入ると何人かの驚いたような声がした。


「あれ、渉早かったな?」

「疾風も戻ってたんだ。あ、紬、笹あっち」

「ん。書いてくる」

「行ってらっしゃい」

「なんだ、短冊書きに来たのか」