あしたのうた



「へえ……一回行ってみたいな」

「後輩の大会、今でも見に行ってるから、渉も一緒に行く?」

「……いいの?」


思わぬ誘いに目を瞬かせると、うん、と紬が頷いた。


「一緒に見に行ってる人とかいないの?」

「私の代、私一人だけだし。先輩とか後輩は見に来たり来なかったりでばらばらだから。別にいいし、渉さえよければ私は渉と行ってみたいかな」


競技の百人一首、ちゃんと見たことない人と言ったらどういう反応するのか気になるしね、と悪戯気に笑った紬に、分かった、と苦笑しながら請け負う。期待する反応を返せるかどうかは分からないが、競技自体に興味はある。


日程確認したら連絡するね、と言って、紬がスマホを弄りだした。忘れないうちに連絡をしてしまおう、ということらしい。


百人一首おさらいしておこうかな、と頭の中で予定を立てつつ、そういえば何時だろうかと時計を見遣る。二時ちょっと前を示している時計は、文化祭が終わるまであと約一時間だということを教えてくれていた。


「紬、文化祭あと一時間だけど、どうする?」

「え、あ、本当だ。三時までだったっけ? 連絡まだ来ないからなあ……」

「二時半までは待ってみる?」

「うん、まだ読み終わってないやつあるし、そうする」


分かった、と返して、次の作品に交換してくる紬を見送る。俺は部誌は読み終わってしまったし、持ってきているのは万葉集だけ。


さてどうしようか、と部誌を閉じて隣に置く。俺も展示作品でも読んでようか。


思い立って同輩の展示作品を手に取り、紬の隣に腰を下ろした。そういえば来ると思っていた部員がまだ来ていないな、と思うがちらほら客自体は入っているらしく、部誌の数が減っているのが見て取れる。


優秀な後輩を持った。来年以降も心配はいらないかもしれない。


同輩が夢を題材に使っていたのは本誌だけのようで、展示作品にはそういった話はなかった。時間もあるし、俺は頼めば後でも読ませてくれるので半ば流し読みをする。


軽く百ページを超えていそうな展示作品を最初から読んで、ずっと部員が一人占めしているのはやめておいた方がいいだろう。そんなことをしたらあとで他の部員に怒られそうなものである。


「人少ないねーって妹尾珍しい。いなくなってると思ってたよ」

「部長お帰りなさい。何となく残ってました。後輩ひとり残すのも流石にどうかと思って」

「部長さん! クラスの方は?」

「今丁度終わったところ。そっか、ありがとね妹尾。渚もお疲れ様。俺代わるよ、展示作品読みたかったんでしょ?」

「はい! ありがとうございます!」


俺は昨日読めたから、と部長と受付番を交代した後輩に、持っていた同輩の展示作品を差し出した。