あしたのうた



隣の紬は、いつの間にか他の展示作品を読んでいる。後書きを開いたままになっていたの部誌を捲って、次の作品を読み始める。


夢を、思考の中から追い出してしまいたくて。深入りしてはいけないと、そう強く感じて。


知りたい気持ちと知りたくない気持ちは、最初からせめぎ合っている。それでも知ってはいけないと感じているのだから、それに従うしかない、と。


「紬、紬」

「……ん? 渉、どうしたの」

「ちゃんと水分取ってる? 熱中症になっちゃうよ」

「あー……ん、ありがとう。気をつける」


集中が切れたせいか、文字が頭の中に上手く入っていかないのを感じて床に部誌を伏せて置く。隣で一心不乱に物語を読んでいる紬に声をかけて、自分はこの際とお茶を一本買うことにした。


後輩からお茶を受け取って、何口か。冷房の効いた部屋は涼しいけれどその分身体の水分を奪っていく。元の場所に腰を下ろして一息吐くと、再び部誌を手に取った。


最後まで読み切るのと同じタイミングで、紬も展示作品を読み終えたらしい。どうだった、と問いかけると、普通に面白かったよ、と返ってきた。


その普通に面白い、が同輩────書き手にとってどれだけ嬉しいことなのか。伝えた時に凄く興奮して巻き込まれそうな予感がする。


「そういえば、紬は部活とか入ってないの?」

「私? 私は特には。帰宅部だよ」

「文芸でも入ってるのかと思ってた」


行く場所に迷って文芸部の答えが出てくるくらいだから、自分が文芸部なのかそれに関係するような部活をしているのかと思っていたが。


「中学までは百人一首習ってたけどね」

「え、そんな部活あったの?」

「部活というか……学校で有志が集まっただけ、みたいな感じだけど。大会には一応出てたよ。そこまで強くはなかったけどね」

「いいなあ……俺も入りたかった」


幼い頃から和歌に触れていた。けれどだからと言って私立の小学校中学校に通っていたわけではなく、公立高校は選ぶことができない。そのためやりたくても出来なかったのが現実だ。


自分で勉強はできても、大会に出られるわけではない。大会に出たくて和歌に触れていたわけではないが、やるなら出てみたかった、という気持ちがないわけでもなく。


それよりも同じように和歌が好きな子と話がしたかった、というのが一番なので正直大会なんてどうでもよかった。それも高校二年生になって叶ったので、今更もういいのだけれど。


「反射神経がよくないから。和歌は覚えてるんだけど、百人一首って競技になるとそれだけじゃどうにもならないんだよね」

「あー確かに。動画見たことあるけど、激しいというか」

「そう、激しいの。早いし、実際に会場いると分かるけど本当に熱気とかも凄くて」