あしたのうた



「部長さん、小説の方かと思ってた」

「大体初対面だとみんなそういうって部長も言ってた。意外でしょ、漫画チックな絵書くの」

「でもうまいね。細かいところまで綺麗、な気がする」

「うちは緩い割に上手い人集まってるからね。小説もそうだけど。ジャンルは絵も小説もばらばらだから、一つくらいは好きな感じの作風とかあると思うよ」


外部投稿含め、絵書きと物書きを合わせるとそれなりの人数はいるのだが、作風はばらばらなのがお決まりだった。まるで示し合わせたかのように。それはそれで楽しいのだが。

「あっちのは?」

「あれは昔の部誌。表紙に年とか書いてあるから見ると分かるよ。隣の机は展示作品ね。絵描きの生絵だったり物書きの部誌本編の番外だったり。過去部誌と展示作品は持って帰れないから、見るんだったらここにいる間ね」

「どうせ渉はここにいるんだし、私、読んでくる」

「感想とか少しでもあったら言ってくれると、多分みんな喜ぶ」


分かった、と返事をした紬が展示してある小説のファイルを一つとって、黒板前に座る。ぱらぱらと中身を捲り始めたのを見て、俺も今度こそ万葉集を開いた。


自分の作品を目の前で読まれるのって嫌い、と言っていた部員が何人かいたが、丁度誰もいない時間帯である。俺自身は何の投稿もしていないし、恐らく展示作品を読むには絶好の時間だろう。


手元に集中したいところだが、仮にも店番を頼まれている以上反応できなくなるのは避けなければならないわけであって。つまりはなるべく集中しないように頑張りつつ読書するわけなのだが、これが案外難しい。


誰も来ない、俺と紬しかいない教室にクーラーの稼働音だけが響く。廊下からは活気づいた声がいくつも聞こえてくるが、ドアで閉ざされた空間はまるで孤立しているかのような。


ここまで人が来ないのも心配になるな、と思って俺が顔を上げると、リストアップしていた中の一人、後輩が小さく開けたドアの隙間から身を滑り込ませるのが見えた。


「妹尾先輩、ありがとうございます!」

「いや、暇だったし、大丈夫。そっちはシフト終わったの?」

「はい、もうフリーなので! 普通に店番ですよね?」

「うん。交代頼んでもいい? 一応教室にはいるから」

「了解しました!」


受付番から解放されて、後輩に席を譲る。後輩が来たタイミングで途切れたのか、俺たちの様子を窺っていた紬の横に、今回の部誌を持って座った。


「まだ読んでないの?」

「絵の方はぱらぱら見たんだけどね。小説は今日でいいかなって思っちゃってたから、読んでないんだ」

「万葉集は?」

「だって集中しちゃいけないと思って」


なるほど、と納得した様子の紬がまた作品に戻る。手元の展示作品が気になるらしい、気に入ったのかなと誰のものか確認すると同輩の作品だった。