「私から、そう提案したので」
「……村崎さんから?」
「そうです。すごく話が合って、感動したのでつい」
「話が合ったってことは、和歌か。よかったな、渉、話できる子が見つかって」
「嬉しいけど疾風に言われるとなんていうか素直に喜ぶ気になれないね」
なんでだよ、と騒ぎ出す疾風を無視して紬にありがとう、と落とした。んーん、と首を振る紬に、見てくる? と教室中央に置いてある文芸部の過去の部誌を示す。
頷いて立ち上がった彼女を見送ると、俺は反対側の疾風を振り向いた。
「いい加減にしてよ?」
「悪かったって。ほんとに彼女じゃないのか?」
「しつこいなあ。違うって言ってるでしょ」
「ふうん」
紬に聞こえないよう、小声で話しかけると一応気を使ったのか、同じように声を小さくした疾風が再度確認をしてくる。
どうしてここまでしつこいのか。そんなに俺が呼び捨てで呼んでる異性が珍しいのか。確かに同性ですら疾風ほど親しくしている友達はいないが、それにしてもなんというか、違和感を感じなくもない。
普通はここまで訊いてくるものなのだろうか。普通に興味など持たず、他に比べられるような相手もいないから分からないけれど。
それが疾風だと言ってしまえばその通りなので、溜め息を吐くだけで終わらせておいた。本日何度目だろうか。
「ていうか疾風、何しに来たの」
「渉を連れ出しに。お前どうせ飯食ってねえんだろ」
「いらない。紬もいいって言ってたし」
「仮にも育ち盛りが飯抜くんじゃねーよ」
「お前は俺の母親かよ」
つい突っ込むと一瞬驚いた疾風だったが、すぐにおう! と胸を張った。やめてほしい。どうしてそこに同意する。
くすくす、と笑い声が聞こえて疾風から視線を外し、笑い声の主を探す。ぶちょー、と情けない声を出した隣の疾風に、部誌を見ていた紬も振り返った。
「妹尾、店番頼める? 俺これからクラスの当番なんだ」
「了解しました。ってことだから疾風、一人寂しく食べてなよ。一人じゃなくても疾風なら他にもいるでしょ」
「そうだけどさあ……くそうぶちょーさん恨むからな!」
「敬語」
「恨みますからね!」
律儀に言い直した疾風に部長が楽しそうにころころと笑いながら教室を出ていく。現在客はなし、しいて言うなら紬だろうか。疾風は確実に違うのでノーカウント。
他の部員はどうやらそれぞれクラスや他の部活のシフト、もしくはお楽しみの最中らしく、誰ひとりとしていない。朝はまだ人がいたのだが、お昼前後のこの時間、辺鄙な場所に来る人はいないようだった。


