流石に、そんなことはないと思うのに。
俺を見てほしい。ふと湧き上がってきた想いに、自分自身で戸惑う。どうして、なんで、俺は紬に、何を見ているのだろう。
「私も、今はあまり詠まないけど」
「……その『よむ』、は、どっち?」
「readじゃない方」
「いま、は?」
「そうだよ」
昔は詠んでいた、ということらしい。あまり、というのだから、今だってきっと全く読んでいないわけではないのだろうが。
「読んでもいるけどね。最近はそっちの方が多いかな」
「それはreadの方だね」
「ご名答」
深く突っ込むことは、しなかった。
さっき、会話が少しだけ途切れてから、紬が時折寂しそうな表情をするのがずっと気になっていた。
「……紬、」
その時、がたん、と鍵のかかったドアを引こうとする音が狭い文芸部室に響いた。
「渉、やぁーっと見つけた! 探したぞ! ……って逢引き?」
「……違うから」
「とりあえず、俺束野疾風な! よろしく!」
「厄介なのが来た……」
ぽかん、と頭上のお節介────基、疾風を見つめる紬。名前通り疾風のようなこのお節介は、あまり意識的に空気を読むということをしないため、こういうことが多々ある。
鍵を開けるなり疾風が思い切り開けはなったドアを、そっと閉めにかかる。ドアに背を預けて二人並んで座っていた俺たちだったが、疾風がいきなりドアを開けるものだから反射的に腰を浮かせて後ろを振り向いてしまったのは仕方ない。
本心では、振り向きたくはなかったけれど。本当に、来るとは思っていたが迎えに来るとは。せめて一言連絡を入れてくれていたら、もう少し心の準備とか言い訳とかも準備ができたというのに。
「ちょっ渉閉めんな! 折角来てやったんだから!」
「俺は頼んでない」
「それもそうだけどな!」
「渉、可哀想じゃない?」
「お節介にはこのくらいの扱いがちょうどいい」
渉! と叫び声がするのを無視したかったのだが、考えてみたらここまで声を出されたら教師にばれる。そうしたら少々面倒臭いことになりそうだ、このお節介を相手しているよりも。
仕方なく、最大限の譲歩ということを分からせるために深い溜め息を吐きながら閉めかけたドアを開ける。状況がよく分かっていないながらも苦笑している紬にごめん、と落とすと、ふるふると紬が首を左右に振った。
「とりあえず疾風、目立つ。文芸行くよ。紬、それで大丈夫?」
「うん。というか私、いてもいいの?」
「寧ろいなくてもいいのは疾風だから、紬は気にしないで。それで疾風は気にして。叫ばないで」


