あしたのうた



「考えって違うものだね」


そうだね、と頷いて、天の海に、のうたを探す。開いたページ、文字をそっと指でなぞると、そういえば、と隣から紬の声が聞こえた。


「七夕って、秋の季語なんだよね」

「嗚呼、うん。昔は一月から三月、四月から六月、七月から九月、十月から十二月で春夏秋冬だったからね。七夕はぎりぎり秋」

「そういえばそうだっけ。たまにわからなくなるんだよね……なんで七夕なのかも謎だし」

「節句がつかないって?」

「そう」


まあそれは俺も思ったことあったけど。


「桃の節句、端午の節句、重陽の節句は節句だけど、元日は違うし。乞巧奠とたなばたつめ、が語源だっけ?」

「語源ではなくない? あくまで二つの風習と信仰が合わさってできたってだけで。まあ似たようなものだろうけど」

「あ、でもなかったっけ、言い方。人日の節句、が元日で、しちせき、の、節句だっけ」

「というか、人日の節句は一月七日じゃなかった? 嗚呼、そうか、五節句は一月一日じゃないんだっけ」


そういえばそうだった。桃の節句、端午の節句、七夕、重陽の節句は数字が重なる日だけれど、最初のひとつ、人日の節句だけは違うんだった。


「それ言ったら桃の節句も桃じゃなかったような……」

「あ、分かった、思い出した。上巳、の節句だ」

「それだ。……ていうか、よく知ってたね、乞巧奠とたなばたつめ、なんて」

「それは渉には言われたくないかな?」


それもその通りである。


乞巧奠────きっこうでん。そして、たなばたつめは『棚機つ女』。


そういえば、万葉集に入っている七夕のうた、天の海に、だけじゃなかったな、と思い出した。確か、山上憶良も七夕をうたっている。


流石にうたまでは正確に覚えていないけれど。嗚呼でも、そのうたも袖を振る、というフレーズが入っていたように思う。


「渉はお願いしたの?」

「お願い、というか……まあ、俺のクラス、笹の葉持ってきてるから、全員何かしら短冊は書いてるよ」

「え、笹持ってきたの凄いね?」

「クラスメイトが、田舎の方に住んでるらしくてさ。チャリ通だから笹担いで来たらしいよ」

「担いで来たの!?」


昨日の初日、装飾の最終確認に早めに学校に来た時、少し遅れて件のクラスメイトが来た。汗だくで笹を肩に担いでいたのを見ているから、恐らく本当のことだと思われる。


その笹を設置して、短冊を書けるスペースを作ったのは俺だし。元々決まっていたことだったからそんなに手間にはならない。