「こんなに話が合う子、初めて出逢ったかも」

「私もだよ。……ねえ、渉、夢見たりしない?」

「ゆめ?」


唐突に落とされた質問に、首を傾げる。どうしていきなり夢、と思うよりも先に、なんで知ってるの、という気持ちが先走る。


夢。ゆめ。


いつも見る、夢がある。


「……疲れると、よく見るかな」

「そ、っか」


夢。いつも見る、ゆめ。


それはどこかわからない場所で、俺は俺ではない誰かで、夢だと分かっている、所謂明晰夢というものなのだろう。


いつも見るくせに、それらは同じ場所ではなくて、大体違う場所。否、正確には、幾つかの場所で起こっている同じような出来事を、ローテーションで見ているような。


自分のはずなのに、自分ではない。何が起きているのか、何をしているのか、それは見えているはずなのに、覚えていない。自分がいて、相手もいるはずなのに、その姿を顔を、何故か覚えることができない。


同じ夢を見ている、それは理解しているのに。どんな夢だったかと訊かれると、答えられないのだ。


そしてその夢を、なんとなく、ひとに言ってはいけないような気がしていた。


言ったところで、説明などできないのだけれど。それでも、口にしてはいけないような。誰にも言ってはいけない、と。無意識に、俺はきっとそう思っていて、だから親にすら言ったことがない。


「……私ね、いつも同じ夢、見るんだ」


どくん、と心臓が強い鼓動を打った。


どうして唐突に紬がこんなことを言い出したのか。出逢ったばかりの俺に、いくら万葉集という共通の趣味があると言えども、こんな話をしているのか。


分かりそうで、分からない。────否。


わかりたく、ない。


「ねえ、渉」




────本当に、憶えていないの?




それはどういう意味だろう。出逢ったばかりなのに、夢の話なんてしていないのに、何を憶えているというのだろう。


紬。君は、俺の何を知っている?


「……ごめん、変なこと言った。気にしないで、って無理だと思うけど……忘れて」


寂しそうにそう言った紬に、何も言えなくなってしまう。


紬。むらさき、つむぎ。


名前に理由なんてあるのか。理由があったとして、それは果たしてこの現実でありうることなのだろうか。


有り得ない、なんてことは有り得ない。


そうは思っていたとしても、実際そういう状況になってみたら信じられるかどうかは別問題だ。