あしたのうた



ふと真剣な声音に戻したお姉ちゃんが、私をそっと見つめてくる。その視線に何を言えばいいのか分からなくなって、私は言葉を探して俯いた。


それに気付いたのか、お姉ちゃんは「とりあえずお昼取ってくるね」と席を立つ。隣の渉が遠慮がちに頭を撫でてくるのを、瞼を閉じて受け入れた。


お姉ちゃんが心配してくれていることは、分かっている。姉妹仲はいい方だと自負しているほど。こうして軽口の応酬ができるのはお姉ちゃんと天音くらいのもので、それだけ自分も二人に対して遠慮がないことは自覚している。


だからこそ、こうして時たま触れる優しさがどこか恥ずかしくて、どう接すればいいのか分からなくなるのだ。


「……紬、大丈夫?」

「……ん、大丈夫。ごめんね渉、話すよ。……えーっと、どう話すべきかな……」


今の私たちは、付き合っているわけではない。かといって、ただの友達というわけでもない。


運命共同体。そう説明するのが一番的確なわけだけれど、この姉が正直それだけで納得してくれるかどうかは分からない。────分からない、けれど。


ふと頭の片隅を過った記憶を、私は必死に手繰り寄せた。


「紬の話したいように話してくれていいよ。……お姉さんは、関係者ではな、い……否、もしかして、関係者?」


渉の言葉に躊躇いながらも頷く。嗚呼、と零れた言葉に小さく笑うと、私はその名前を口にする。


「────鏡王女」


思い出したのは、本当についさっき、今し方のことだ。


額田王としての記憶は持ったままで、大海人皇子と中大兄皇子と何があったのかもきちんと憶えている。けれど、額田王と鏡王女の交流は大してない。


そもそも、二人が姉妹だったという確たる証拠も存在していないのだ。私も、正直なところ憶えていない。憶えているのは、鏡王女が中大兄皇子の妃だったということ。ただ、その後藤原鎌足の正妻となっているが。


でも、こうして気づけば、思い出せば、そうだったのだろうと思う。あの時代は複雑だから、兄弟姉妹が顔を合わせたことがなくてもさして不思議ではない。寧ろ、中大兄皇子と大海人皇子の関係の方が珍しいかもしれない。


じわじわと戻ってくる記憶に、どう対応すればいいのか分からなくなる。この時代を、最初の時代を思い出すのは、初めてのことだから。いくらもう自分が額田王だったということ、渉や徹さんが大海人皇子と中大兄皇子だったことは思い出していたとしても、それとはまた話が別だ。


まさかここで、姉妹だったことを思い出すなんて。本当に、急すぎる。記憶というものは大抵そんなものだったけれど。


「……繋がってるんだね、俺たち」


どこまでも。


私とお姉ちゃん、渉と徹さん。額田王と鏡王女、大海人皇子と中大兄皇子。最初の時代で彼と彼女が関わった人たちが────血を分けた、兄弟が。


この時代で、また同じ兄弟姉妹として生まれ変わっている理由は、なんだろう。