「……お姉ちゃん!?」
予想もしていなかった声に呼ばれて思わず氷を退けると、入り口でお盆を持ったままぽかんとするお姉ちゃんが目に入って、私は思わず空を仰ぎたくなった。
隣の渉が驚いているのがわかるが、今はそれどころではない。確実に冷やしていたことには気付かれただろうし、ということは四人がけこの席、好機とばかりに座ってくるに違いない。一番面倒臭い事態かもしれないと思いながら、大人しく諦めて再び氷で目を冷やし始めた。隣の渉が気遣わしげに見てくるのが分かって、私のお姉ちゃん、とだけ言っておく。
「まさか紬がきてるなんて思わなかったなーしかも男連れで。それに泣いたでしょう? 隣の少年に泣かされたの?」
「お姉ちゃん煩いとりあえず静かに。ここお店だから」
「さーせん」
「……え、っと」
怒涛の勢いである。
深い溜め息を一つ吐いて、氷を外す。とにかく、と渉の方を向くと、うちの姉です、ともう一度紹介した。
「紬の姉の織葉でーす! 高三だから年子だね。南高行ってます」
「あ、っと、妹尾渉です。紬とは同い年で、俺も南です」
「で、紬の彼氏さん? 泣かせたの?」
「ちょっとお姉ちゃん!」
初対面で容赦のない姉を呼ぶことで制す。てへ、と舌を出す姉だが反省していないことは丸分かりだった。困った様子の渉に向き直って、その服の裾を引っ張る。渉が私を見たことを確認してから、静かにお盆に手をかけた。
「渉、帰ろう」
「え、」
「ストップ! ちょっと紬酷くない!?」
「だからお姉ちゃんシャラップ。酷いのはそっちでしょう、人の話も聞かないで一方的に捲し立てて。渉困ってるじゃない」
隣の渉が戸惑っているのはわかるが、私と姉は大抵こんな感じだ。よく姉妹逆じゃないか、と言われるが自分でも思う程。私の腕を掴むお姉ちゃんの手をやんわりと離すと、再び大きな溜め息を吐いてその場に腰を下ろした。
ここで帰ってもいいが、そうしたら家で質問攻めにあうことになる。それはなるべくなら勘弁したいし、その場合質問攻めだけならまだしも下手に絡まれる可能性も捨てきれないので、ここで相手をしておくのが正解だろう。
「ごめんね、渉、付き合わせて」
「いや、俺は平気。ちょっと驚いたけど」
「本当ごめん……お姉ちゃんがまさか来るとは思わなかった……」
確かに、このお店は姉も知っているのは分かっていたけれど。まさか今日このタイミングで鉢合わせるなんて誰も思うまい。
「私だって紬がいて驚いたんだからね? しかも男連れだし、泣いたみたいだし。で、本当に何があったの? そろそろお姉ちゃんにお話ししてくれてもよくない?」


