あしたのうた



言われて、そうだねと苦笑する。『今まで』は、ろくにご飯が食べられないのが普通だったのだ。好き嫌いできることが私たちにとってはとても平和に感じられることなのである。


和食系統だよ、とだけ伝えると、それ以上は何も言わずに歩いていく。渉の方も深く訊いてこないのは、様子を伺う限り少し楽しみにしているかららしい。


河原から歩いて約十分。住宅地からは少し離れた場所にあるその食堂はリピーターの多いところだった。


「いらっしゃいませー! ってあら村崎さん」

「こんにちは。ちょっと久しぶりに来ちゃいました」

「お連れさんは初めましてかな? 好きなおかず取っていってね」

「渉、お盆それ」

「あ、うん」


ファミレスとか料理屋というより、食堂。一品一品で値段がついており、自分の食べたいおかずを選んでいくシステムだ。バイキングに近いかもしれないが、洋食のイメージのあるバイキングとは対照的に小鉢で出しやすいきんぴらごぼうやほうれん草のおひたしなど、田舎のご飯、といったおかずが並ぶ店。異性と行くと大抵食べる量の問題が出てくるので、ここにくると気にしなくていい分楽だと思う。


渉に教えるために先にお盆を取って、ざっと出ているおかずを眺める。きんぴらごぼうと、水菜のサラダ。それから鯖の塩焼きを選んで会計へ。そこで欲しい人はご飯や味噌汁などを頼んで終わり。今日は両方とも頼む。


私に倣って自分の分を選んで行く渉を見ながら会計を済ませていると、レジをしてくれていた顔見知りのおばさんにあれ、と首を傾げられた。


「村崎さん、泣いた?」

「あー……分かりますか、やっぱり」


苦笑しながら受け答えをしていると、渉が聞き耳を立てているのが分かる。意味ありげに渉に視線を流したおばさんに首を振って否定すると、違いますよ、と念を押すように告げた。


否、広義の意味では間違いでもないのかもしれないけれど。渉に何かされたわけではないし、まずそうだとしたらここに連れてはこない。氷もらってもいいですか、とそれだけ許可を取ると、使ってと言ってくれたおばさんに会釈をしつつ席を取る。お盆を一度置いて小さいビニール袋を取り出し、氷をいくつか入れて席に戻ると、私を待っていた渉と二人で手を合わせていただきますをした。


「冷やさなくて平気?」

「うん、ちょっとタオルに包んどく。先に食べちゃいたいし」


タオルで包んでおけばそんなにすぐには解けないだろう。ミニタオルに持ってきたものを包むと、早速箸を手に取る。そっか、と頷いた渉も食べ始めるのを見て、私もおかずに箸をつけた。


「……美味しい」

「でしょう? ここなら、自分の食べられる量だけ選べるから。たまに来るんだけど、好きなんだよね」

「なんか、安心する雰囲気だね」