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ふ、と目を覚ますと、目の前が暗かった。
あれ、と疑問に思いつつ動こうとすると、何かに緩く拘束されているのがわかる。そういえば身体が暖かい。
そこで漸く事態を思い出した私は、ぱっと顔を上げた。
すうすうと寝息を立てながら、渉が安心した面持ちで瞼を閉じている。寝てしまってからどのくらいだったのか、どうやら渉も寝てしまったようだった。
下手に動いて起こしてしまうのも忍びない。そのまま安心する体温に身を委ねながら、初めて見る彼の寝顔を見つめる。動いたら起きるだろうか、と不安にはなったが、ずっと同じ体勢でいるのが辛くて小さく身動ぎをした。
唸りはしたものの、起きる気配のない渉に安堵してこっそり溜め息を吐く。時間を確認したいところだが、流石に大きな動作は憚られる。少しだけ見えた空は青く、少なくとも夕方ではないだろうと判断してまだ大丈夫と高を括った。間違ってはいないはずだ。
小さく嘆息して、そっと瞳を閉じる。頭にかかる渉の吐息が、少しだけ擽ったい。彼の体温とその吐息を全身で感じながら、私はゆるゆると心が解けて行くのを自覚した。
本当に、こんなに平和なのはいつ振りだろうか。
ひんやりしつつ、まだどこか暖かいものを孕んだ風と。青く澄み渡る空、優しく、少し突き刺すように照らしてくる太陽。その太陽に照らされてふわふわとした雑草が頬を擽る。さあさあと聞こえる音は耳障りではなく、逆にその囁きに安心を覚えた。
「────わた、る」
そこに、ちゃんと、いる。
いつかいなくなってしまったら、という懸念はきっと消えることはない。生きている以上、死というものは誰にでも平等に訪れるものであって、その死を避けることは不可能で。それでも、唐突に私の前から彼を奪わないでと、私はいつもかみさまに願う。
その願いが叶ったことは、ほとんどないのだけれど。いつの時代だって、かみさまは私を、彼を、唐突にお互いの前から奪っていったから。
けれど、渉が言ってくれた。紬の望む未来を信じて、と。望まない未来を信じないで、と。
だから私は、たとえ不安になったとしてもその不安を信じない。大丈夫、今度はきっと上手くいく。上手くいくことがどういうことを指すのか自分でもよくわからないながらに、私はひたすらに私の想い描く未来を信じると決めた。
だって私は、最初の、時代から。私は、最期まで彼との未来を信じていた。
────君待つと 我が恋ひをれば 我が宿の 簾動かし 秋の風吹く
────あなた様を恋しく待っていますと、家の簾を動かして秋の風が吹いてきます
最初の私が詠んだうた。中大兄皇子に向けて詠んだとされている、うた。


