あれは、今で言う平安時代だったか。源平前辺りだったと記憶しているが、実際のところ正確な年月なんて分からなくたっていいのだ。
隣に横になった彼が、私の頰にそっと手を当てた。冷たい体温が、昔、を思い出させて辛くなる。泣きそうな顔をしたのに気づいた彼が、泣かないでよ、と困った顔で呟いた。
「ごめんね、おしん」
「……あれは、仕方のないことでしたから」
「おしん」
「……貴方を詰ったところで、どうにもならないじゃない……っ」
タオルで目を覆って、その上から更に腕を乗せる。何度も名前を呼ぶ彼にそう叫ぶと、ふつり、と黙り込む気配。頰に当てられていた手がするりと離れて、冷たくても感じていた体温がなくなったことが酷く寂しく思えた。
あれは、どうしようもなかった。私にも、彼にも、どうすることもできなかった。
あの時代、では。今この時代なら或いは。けれど、そこを議論したって誰も救われない。寧ろ、この時代なら助かったかもしれないという方が報われない。
元々身体の強くなかった彼が、高治様が流行病で亡くなったのは、当時の私がまだ十四だった、秋のこと。高治様が先に思い出していて、私があとから記憶を追いかけるように思い出していった、その最中に。床に伏した高治様は一度も身を起こすことのないまま、病を得てから一月後に息を引き取った。
十四にして夫に先立たれた私は、その後すぐに記憶を思い出し。弱っていた私にも襲いかかっていた病魔の手の内に落ちた私もまた、高治様が亡くなってから三ヶ月後に死んでいた。
「ねえ、高治様」
声が震えているのが、自分でも分かった。これ以上泣いたら、目の腫れが引かないと分かっていても。
滲み出る涙をビニール袋は吸ってくれず、隙間から零れ落ちていった涙が耳に溜まる。左手を伸ばして渉の手を捕まえると、頰にぎゅっと押し当てた。引っ込める様子のない彼は寧ろ優しく押し当ててくれて、少しだけ戻ってきた体温が温かく感じる。
「一体どうすればよかったというの」
少しだけ、怒っているでしょう。思い出すといつもそう。でも、私にはどうすることもできなかった。
「どれだけ幼くとも、貴方を思い出した時点で、私は貴方を愛しているんだから」
たった十四歳だったとしても、彼を愛す気持ちは、いつの時代だって変わらない。
「自殺をしたわけじゃ、ないのに」
「……おしん」
「ねえ、私にどうして欲しかったんですか、高治様」
どうしようもないくらいに、愛おしかった。最初の時代を抜いて、この時代は二回め。つまり当時からすると二つめの時代は思い出す内容自体少なく、また記憶があるなんてことが初めてで、戸惑いも大いにあった。そのせいで不思議に思われたことは一度や二度ではない。


